東京で人気を集めた家具店が、人口約2万5000人の富山県立山町にある築50年以上の空き家に移転した。店主の岩崎朋子さん(51)は「自然が豊かな場所で、人と人との交流の場になれば」と話す。
家具店「巣巣」は2003年、東京・世田谷で開店。岩崎さん自身がデザインした家具の他、東南アジアや北欧などの輸入雑貨を販売して話題となり、ファッション誌で取り上げられたこともある。だが18年末、約16年間の営業にいったん幕を下ろした。
岩崎さんは閉店の理由を「環境を変えてみたくなったから」と語る。08年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災、消費税増税などで経営環境が厳しくなった。「80歳になっても無理なくお店を続けられるようにしたかった」
19年4月、公務員の夫が富山市に転勤になり、単身赴任を始めた。富山を何度か訪れるうちに「自分のペースで営業を続けられる静かな立地と、北アルプスの山並みの美しさ」に次第に引かれ、東京出身の岩崎さん自身も移住を考え始めた。
自治体が移住者に物件を紹介する「空き家バンク」を活用するなどし、現在の物件に出合った。15年に北陸新幹線が開通し、県外からのアクセスもいい。「店から富山市中心部までは車で約30分。街のコンパクトさも気に入った」と、購入を決めた。
新しい店舗兼住居は、1965年に建てられた延べ床面積約150平方メートルの木造2階建て。古い作り付けの食器棚や建具などはそのまま生かすことにした。家具や雑貨を販売する他、コーヒーやケーキなどを出すカフェも併設。地元のスギ材を使った自作のカウンターが目を引く。
新型コロナウイルスの影響もあり、対面での営業の先行きは不透明だが、オンラインショップで注文を受ける。岩崎さんは「家具や雑貨を通じ、生活の『巣』作りのお手伝いができれば」と笑顔で前を向いた。