新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた国内消費が、少しずつ力強さを取り戻しつつある。1人10万円の特別定額給付金や、在宅勤務を含む「巣ごもり」需要が牽引(けんいん)し、家電製品などは前年を上回る売れ行きをみせている。総額12.8兆円規模の給付金のうち、実際に国内で消費に回るとみられるのは3兆円程度。全国の給付率はようやく9割に達し、争奪戦が本格的に始まった。
コロナ前のにぎわい
「洗濯機や冷蔵庫、エアコンといった生活家電とテレビが売れている。給付金は5人家族だと50万円。影響はあるだろう」
家電量販大手、ビックカメラの販売担当者は活発な夏商戦に胸をなでおろす。
5月25日に緊急事態宣言が解除されてから、店舗への客足は目に見えて戻り始めた。グループ傘下のコジマを合わせた6月の売上高は、前年同月比109.2%と4カ月ぶりにプラスへ転じた。
平日の16日午後、有楽町店(東京都千代田区)では、洗濯機やテレビなどの売り場はコロナ前と変わらないくらいにぎわっていた。洗濯機は縦型より高額なドラム式、テレビはインターネット動画配信を手軽に視聴できる大画面の最新モデルの商品が人気だ。テレビの場合、期待された五輪特需は空振りとなったが、2009~11年の家電エコポイント実施時に購入した製品が買い替え時期を迎えていることが追い風となっている。
エアコンは、大型連休後に蒸し暑い日が増えたことが幸いした。富士通ゼネラルは、4月から直近までの量販店での販売台数が、天候不順で低調だった前年同期を10%近く上回り、例年並みだった一昨年と比べても同水準で推移。「在宅時間の増加で、書斎や子供部屋に設置する2台目を買う人が多い」という。
「3密」になりがちな電車通勤から、マイカー通勤に切り替える動きも追い風となっている。6月の国内新車販売台数(軽自動車含む)は、前年同月比22.9%減の34万7371台となったが、44.9%減だった5月からは改善。電動アシスト自転車も人気で、パナソニックによると健康維持目的もあってか、緊急事態宣言の解除以降は市場が前年比で10%程度伸び、同社単独ではそれをさらに上回ったという。
苦戦業界もチャンス
6月の消費動向調査によると、向こう半年間の消費者心理を示す消費者態度指数(2人以上世帯、季節調整値)は、前月比4.4ポイント上昇の28.4と2カ月連続で改善。上昇幅は、データが比較可能な13年4月以来で最大だった。もっとも、水準としては過去3番目に低い。
給付金が国内消費にもたらす効果はどのくらいか。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、給付金の消費増効果が1.3兆~3.2兆円にとどまるとみる。これは麻生政権時代の09年に国民1人当たり原則1万2000円を配った定額給付金の結果を踏まえたもの。臨時収入を得た国民が消費に回す割合は10~25%と見込む。
実際、家電の一部を除くと消費の動きは鈍い。旅行や観光は依然として厳しく、東京が対象外となった観光支援事業「Go Toトラベル」の効果は未知数だ。衣料品や、インバウンド(訪日外国人)への依存度が高い化粧品も振るわない。家電の中でもデジタルカメラはイベント中止などが逆風となっている。消費が二極化の様相を呈しつつある。
総務省によると、給付金の支給率は7月15日までに9割を超えた。国民の消費活動が活発になるのはこれからとみられ、苦戦する業界も巻き返すチャンスがありそうだ。(井田通人)