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災害時に「今+その場所」へ意思伝達

 エヴィクサー社長・瀧川淳

 2020年は甲子園に“あの音”が鳴り響くのだろうか。高校野球なら、緊張感漂うプレーボールやゲームセットに伴ってサイレンが球場に鳴り響くシーンを思い浮かべる人も多いだろう。人は「音の記憶」とセットで思い出や行動パターンを呼び起こす。ドラマやCMのタイアップ曲は重要な演出の要素だ。また、避難を呼びかける非常放送でも警告音などの効果が盛り込まれている。

 店頭の「QRコード」にスマートフォンのカメラをかざして行う決済や、緑の非常口マークに代表される「ピクトグラム」など、視覚的な情報から言語によらず直感的な行動を促す取り組みは日常生活に浸透している。エヴィクサーでは音響通信技術を開発・実用化し、街中に設置されている多くのスピーカーとスマホなどのマイクをつなぐことで、「周囲はどんな状況なのか」「周囲にいる人がどんな情報を発信しているのか」といったその場に居合わせた人目線・人同士の意思・情報を今という時間軸とともに届けることを重視している。

 日常使いでは、サイレンを数秒にわたって大音量で放送するわけにはいかない。緊急時なら、発信したい意思・情報は状況に応じて変化する。音響通信には「一瞬に感じる程度、0.1秒で知らせる」「必要な人にだけ最適な形で届ける」「スピーカーから流れている音楽やデジタルサイネージに映し出されている映像が今どのあたりを放送しているのかが手元で同期される」といった機能をニーズの集積として盛り込んだ。

 スマートデバイスの普及とともに、音響設備がある場所ならどこでも実装可能なソリューションとして、テレビ・ラジオ、映画館・劇場からスタジアム、公共交通、避難・防災の分野へと展開を進めている。

 19年夏、神奈川県の逗子海岸で津波避難訓練が実施された際、逗子市の協力の下、行政防災無線放送にエヴィクサーの音響通信技術の信号を埋め込み、それをスマホアプリで受信して他言語でのテキスト、詳細なハザードマップを表示させる仕組みについて実験を行った。あらかじめ設定した目標地点すべてで音響通信による情報伝達に成功し、「既設の防災無線が使えることは、財政に制約のある自治体にとって導入しやすい」との評価を得た。

 自然災害の発生頻度は高まっている。既存インフラを十分に活用するためにもアナログとデジタルを融合しつつ、「今+その場所」にいる人へのきめ細かい意思伝達がより重要性を帯びてくる。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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