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“聞こえない音”の最新技術は10年越し

 「未開の境地!“聞こえない音”の最新技術」-。今年4月にNHKで、エヴィクサーの音響通信技術の活用事例と筆者のインタビューが放送された際の番組タイトルだ。開発当事者からすると、うれしくも、照れくさくもある。(エヴィクサー社長・瀧川淳)

 聞こえない音とは、ヒトの耳では聞き取れない高い周波数の音を指す。人間は感知できないものの、スマートフォンやセンサーのマイクからその音響信号を取得し解析する技術を用いて、情報セキュリティー、エンターテインメント、災害予知などの分野に応用し社会課題を解決する事例が特集された。

 エヴィクサーでは研究フェーズにあった「音に情報を匿(かく)す・埋め込む」技術の社会実装の試みを2008年頃にスタートしたため、このように最新技術として紹介されるのは10年越しとなる。近年では、要素技術を深く掘り下げ、社会課題の解決を図る起業スタイルや事業化は「ディープテック」と呼ばれる。日本ではミドリムシのユーグレナや空間・立体認識のKudan(クダン)などがその代表例で、情報通信技術(ICT)の発達で応用コストが下がり、市場創生の新しいトレンドとして注目されている。

 古くからヒトの感覚は「視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚」の五感に分類されてきた。今や現代人が1日に扱う情報量は江戸時代の頃の1年分に相当するという。情報の処理能力を高めると同時に、自動運転などのモビリティーサービスの拡充やSDGs(持続可能な開発目標)、不定期に起こりうる自然災害を背景として「見えない、聞こえない、カタチのないもの」の感知を補うアクセシビリティの機能向上も待ったなしの状況といえる。

 筆者の当初の着想は、グーグルのキーワード検索のように「音の検索」「映像の検索」ができると、視聴の処理能力を量も質も向上できるのではないか、という素朴なものだった。10年後、無線技術の進化で街中がインターネットに接続されるようになっても、「どうやって人間を置き去りにしないか」という課題が常に併存し、「音の信号処理」技術の出番が続く。「枯れた技術」と言われる分野であっても、人間や社会の根本的な課題に向き合う中で得られる気づきは時代の流れとともに変遷し、小さな結果でも共感を育むことで大きな新しい力となることを実感している。自社をディープテックとするのは後付けだが、「偶然を活用して社会課題を解決する万全の準備」を示唆する事業化アプローチは今後、より一層重要性を増してくる。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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