テレワークやリモートワークなどの在宅勤務は、満員電車、通勤時間、通勤コスト、オフィス賃料などさまざまなコストを減らす取り組みとして、新型コロナウイルスが流行する以前から奨励されてきたが、感染予防という必然に直面して導入が進んでいる。
私の関与しているIT企業でも出社率を4%以下にしたところが数社ある。業務効率にも悪い影響は出ていないようであり、今後も在宅勤務方式は広く普及していくと思われる。
在宅勤務では会社への通勤が免除されることになるが、企業が自由に在宅勤務を設計できるわけではないことに注意が必要だ。在宅勤務は勤務形態の変更であり、労働契約の内容の変更となるためである。
一旦なされた労働契約は、使用者がその内容を勝手に変更することはできないのが原則である。労働者は、採用条件通知書などに記載された条件で雇用契約を結んでいるからだ。
他方で、社会環境は常に変わっていくから、労働契約の一方の当事者である企業は就業のルールである就業規則を変更する必要に迫られることがある。
そこで、労働契約法は、就業規則の変更が、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なもの」であるときに限って、就業規則を変更することができると定めている(10条)。
これまでの一般的な雇用契約では、就業場所は使用者である会社の事務所や作業所であり、従業員は、会社が業務遂行のために用意した執務環境やパソコンを利用することが前提となっている。
従業員が在宅勤務をすれば、自宅にパソコンや通信環境が必要となり、従業員の自宅の通信費、電気代、光熱費なども増加することになる。このため、会社が就業規則を変更して従業員に在宅勤務をさせるために、従業員の負担において、在宅で使用するパソコンや通信環境を整備させたりすることは会社と従業員との雇用契約を従業員に不利益に変更することになる。
新型コロナの感染拡大防止という社会的要請は、「労働条件の変更の必要性」に該当すると思われるが、それによる負担を一方的に従業員に負わせることは合理性があるとはいえない。
このため、多くの企業において、このような従業員の負担を補填(ほてん)するために、デスク、パソコン、ウェブカメラなどを現物支給したり、在宅勤務手当を支払ったりしているようである。
このようなケアは法令順守というだけでなく、従業員のモチベーションを維持するためにも重要である。
緊急事態宣言を受けて在宅勤務制度を採用し、継続する企業もこれから採用する企業も、自社の在宅勤務制度が適法かどうか、十分検討した上で実施するべきである。
【プロフィル】古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。