工場エネルギーや車の燃料に
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などは、福島県浪江町に建設した福島水素エネルギー研究フィールド「FH2R」で、7月の本格稼働に向けた製造試験などを始めた。1ユニット10メガワットと、再生可能エネルギーを用いる水素製造設備としては世界最大級で、1日で燃料電池車(FCV)約560台分の水素を作ることができる。東京五輪・パラリンピックで使われるほか、県内外のスポーツ施設などでの利用を想定している。
1日当たりFCV560台分
水素は、大量に長期貯蔵できるほか、長距離輸送も可能。将来的には、太陽光や風力、水力発電などの電力で製造された水素を活用すれば、製造から利用に至るまで一貫して二酸化炭素を排出しない仕組みができあがる。
政府は、水素エネルギーの利用の意義について、「90%以上の1次エネルギーを海外化石燃料に依存する日本のエネルギー供給構造を変革、多様化させ、大幅な低炭素化を実現するポテンシャルを有する手段」と期待を込める。
FH2Rは、NEDOの技術実証事業の一環で建設された。東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が参加。研究開発費を含む総事業費は200億円にのぼる。
施設では、東京ドーム約4個分の18万平方メートルに設置した20メガワット、約6万8000枚の太陽光パネルを使った太陽光発電の電力を用いて、水素製造装置で水の電気分解を行う。
需要予測に基づき作られる水素の製造量は、年間最大900トン規模で、1日の製造量に換算すると、一般家庭約150世帯に電力を1カ月供給でき、FCVの燃料なら約560台分に相当するという。作った水素は圧縮してトレーラーで運ぶほか、貯蔵されるため、余剰電力を無駄なく蓄えることが可能となる。現在、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの導入が拡大する半面、天候や時間帯に左右されるなど電力系統の需給バランスが崩れる問題が発生している。水素で必要な時に酸素と結び付けて発電するため、これが解消できる。
3月に水素で走るFCVを運転し、開所式に出席した安倍晋三首相は「福島産のクリーンな水素が、工場の生産現場を動かすエネルギーとなり、バスやトラック、あらゆる自動車の燃料となる」と意義を強調。NEDOの石塚博昭理事長は「水素社会の実現に向け、引き続き邁進していく」と語った。
新エネ活用で地域活性化
一方、福島県浪江町は現在、面積の約8割が今も原発事故による帰還困難区域となっており、原発被災地から新エネルギーの活用モデルを示すことで関連産業を呼び込み、地域活性化につなげたい考えで、「持続可能な街づくりを推進していく」(吉田数博町長)と述べた。今回の用地はもともと東北電力の原子力発電所の計画地だったが、東日本大震災後に計画を取りやめ、被災地復興のため浪江町に無償で譲渡した。
製造された水素は、東京五輪・パラリンピックの大会期間中、東京へと運ばれ、聖火台の燃料や選手らを運ぶFCV、燃料電池バス(FCバス)の燃料として使われる。また、晴海地区に建設される選手村でも水素燃料電池により電力を供給するなど、日本の水素社会に向けた取り組みを世界に向けて発信する。このほか、福島県のサッカー練習施設「Jヴィレッジ」をはじめ、県内外のスポーツ施設などで水素が広く使われる予定だ。
五輪の開催延期が決まったが、「製造の目的は五輪以外にもある」(関係者)として、予定通り7月に本格稼働する方向で検討している。(飯田耕司)