大阪府北部に位置し、勇壮な滝や美しい紅葉で知られる同府箕面市に、全国的にも人気のクラフトビール「箕面ビール」の醸造所がある。「気軽に飲める身近な地ビールを」。創業者の亡き父、大下正司さんの思いを受け継いだ長女、香緒里さん(43)ら3姉妹が、おいしいビールを届けようと日々奮闘している。
創業は1996年。正司さんはそれまで同府吹田市で酒店を営んでいた。ディスカウントストアが台頭し、小さな酒店で大手のビールが売れなくなった時代。「酒店に卸して酒店に利益が出るビールを作ろう」。目指したのは土産で買うような高い地ビールではなく、飲みやすく毎日楽しめるデイリービールだった。
創業時、短大在学中だった香緒里さんは、父を手伝ううちにビールの世界へのめり込んだ。一から勉強し、工場長を任せられるまでに。2009年に本場英国のコンテストでスタウト(黒ビール)が金賞を受賞し、世界に認められた。
クラフトビール界を盛り上げる存在となっていた12年、正司さんは工場内で倒れ、くも膜下出血で63歳の若さで他界した。香緒里さんは突然、後継ぎとして社長に。次女、八幡真友子さん(41)が広報、三女、勝見望さん(39)が経理を担い、2人の夫らがビール造りやビアバーを経営するなど、家族総出で箕面ビールを守ってきた。
今でも心に留めていることは「喜んでもらってなんぼ」の精神だ。「父は酒店時代も店の2階を相談スペースにしたり、酒以外のものを配達したり。人に喜んでもらうことが好きだった」と香緒里さんは話す。
手間はかかるが、季節に合わせ、ユズやモモを使ったビールなど新商品を提供するのも、喜んでもらいたい一心から。全国のイベントや物産展に出店して、お客さんと直接出会うことを心掛けている。広く知られるようになっても地元・箕面を大切にし、年に1回は感謝祭を開く。
「麦を栽培するところからやるのが目標。おいしさを守りながら進化し続けたい」。父の思いを土台に、さらなるおいしいビール造りに挑む。