デジタル経営革命新時代

(2)企業理念に立ち返り議論を (1/2ページ)

 --よく分かります。STANDARDを創業したのも、どうすれば目の前にいる人により価値を与えられるかと考え続けたのがきっかけです。最初は後輩の学生たちを集めて、AI技術を教えていたのですが、もっと価値を与えるためには、対面で教えるよりも動画を作ってオンラインで教えるべきだと考え、デジタル化しました。そのコンテンツをソフトバンクさんに評価されたことから、学生だけでなく企業に対しても価値を与えられるのだと気づき、企業向けにシフトしていきました。最初はエンジニア向けの講座だけを提供していたのですが、先ほどの“使う人”を育てることも必要だということで、そのためのコンテンツも提供。さらには企画、開発といった部署の人に対しても専用のコンテンツを提供するようになりました

 「素晴らしい仕事だと思います。フォーバルグループで、IT教育サービス事業やITエンジニアの育成・派遣事業を行っているアイテックが3月にSTANDARDと業務提携。御社のAI関連技術教育コンテンツを提供させていただくことになりました。御社の考え方に大いに賛同し、その考え方を少しでも普及できるようにと鋭意、動いているところです。安田さんのような若い経営者が成功することで、俺も俺もとイノベーションを起こそうとする人が後に続くことでしょう。ただし、IPO(株式公開)をしたいとかひと旗揚げたいという気持ちではだめです。きちんと経営の本質を理解したうえでないと、単なる技術者集団で終わってしまいます」

 ◆バランスが大事

 --大久保会長はいつ、どこでそうした経営哲学を学ばれたのですか

 「私の先生は稲盛さん(稲森和夫氏=京セラ創業者)と盛田さん(盛田昭夫氏=ソニー創業者)です。30代の初めに、稲盛さんの『盛和塾』と盛田さんの『盛学塾』で、孫さん(孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長)、南部さん(南部靖之・パソナグループ代表兼社長)らと一緒に経営とは何かということを勉強しました。ちょうど、私が新日本工販(現フォーバル)の株式公開に向けて、経営の在り方を模索していた時期に両経営塾に巡り合ったのです。盛田さんは積極果敢にアメリカまで行ってイノベーションをどんどん起こすというタイプ。一方の稲盛さんは愚直に組織を作り、人を育てるという考え方で、それぞれ違う。経営にはその2つとも大事なのだということを徹底的に教え込まれ、今の私自身を形成したのだと思っています」

 --イノベーションを起こすことと、組織を着実に成長させることを両立させていくのは、非常に難しいことだと思いますが、その要諦はどこにありますか

 「バランスです。イノベーションだけに重心を置いていたら企業は成り立たない。かといって、守りに入ったら企業は伸びません。イノベーションを起こすために、どこまで技術開発に投資すればいいかを現状のリソースとのバランスを考えて、常にアクセルとブレーキを踏み変えていくことです。当社でも、私と社長がいつも話し合うのはバランスについてです」

 --ナンバーワンとナンバー2の経営者同士で話し合ってバランスをとっているのですね

 「その最たる例がホンダです。創業者、本田宗一郎さんが根っからの技術屋で、浜松工場で水冷エンジンなどの技術開発に没頭しているときに、名参謀といわれた藤沢武夫さんが総務・人事・財務を含めて本社業務をしっかりと守った。経営者がイノベーションに熱中するのと同じくらいの意気込みで組織を守る人間を置いたのです。本田さんと藤沢さんは会社の経営をめぐって本気でけんかしました。ナンバーワンとナンバー2が口角泡を飛ばして議論できる会社ならバランス経営ができます。本田さんと藤沢さんは同時に退任して後進に道を譲りました。藤沢さんが『おやじ、もう辞めよう』と、自分も本田宗一郎以外の人に仕える気はないからとね。夫婦以上の信頼関係だったのです」

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