ビジネスアイコラム

“悪夢”招かないための鍵は「国債大量発行」 市場揺るがす新型コロナ

 円高再来に備えよ、鍵は国債大量発行

 中国・武漢発の新型コロナウイルス・ショックに対し、米連邦準備制度理事会(FRB)は23日、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を当面無制限に買い入れ、ドルを大量供給する緊急措置を決めた。株価暴落の歯止めと世界的なドル不足を背景とするドル高に対応するためだが、気になるのは2008年9月のリーマン・ショック時の円高の二の舞いである。

 リーマン時は主要通貨のうち、円だけがドルと並んで買われ、円高基調が定着し、日本経済はショック震源地の米欧よりはるかに大きな落ち込みに見舞われた。今回はこれまでのところ、世界的なドル債務返済用のドル資金需要の急激な高まりの中、円もユーロなど他の主要通貨と同じく売られ、ドル高・円安が続いているが、一段落した後は逆に円高・ドル安に舞い戻る可能性が高い。

 理由は、FRBのゼロ金利・量的緩和への本格的な復帰と欧州中央銀行(ECB)の同調だ。それに比べて、日本銀行はマイナス金利の「深掘り」は地方などの中小金融機関収益への打撃の大きさからみてまず無理だ。量的緩和の方は、日銀は長期国債購入年間80兆円の枠を建前上維持しているが、先細りつつあり、2月末の国債保有残高は前年同期比14兆円弱にとどまっている。日銀自体、量的緩和の「出口」を模索していたし、国債も品不足にある。市中銀行や生命保険は安全資産である国債を手放したがらない。市場に投入される政府の新規国債発行額は緊縮財政のために縮小を続けている。このため、日銀は「出口」を先延ばしにして国債買い入れを大幅に増やそうにも、そうできない。

 現時点では、ドル需要の高まりから日本国債を売ってドル資金に変える動きが先行しており、日銀がその国債を買い上げることができているわけだが、いずれFRBの量的緩和が市場に浸透するだろう。

 日銀が16日に打ち出した異次元緩和追加の主な柱は株価対策である。株価指数連動型上場投資信託(ETF)の新規買い入れ年間枠を従来の6兆円から12兆円に増やしたのにとどまった。緩和強化策をとらなかったリーマン時の白川方明総裁の日銀よりは危機認識の上ではましだが、黒田東彦総裁の日銀も米欧には大きく立ち後れている。この米欧とのギャップは実質金利差縮小になって表れ、超円高を再来させかねない。

 リーマン時の悪夢を招かないためには、国債の大量発行しかない。安倍晋三政権は財務省の緊縮財政路線を凍結させ、国債を思い切って増発して市場に流し込む。日銀はそれを買い上げ、量的緩和策を本格的に再開する。文字通り、財政と金融の両輪のフル稼働である。

 より具体的には消費税率を5%以下に下げ、安倍政権が執着する全世代型社会保障や子育て・教育の無償化のための財源不足は国債で補充する。国債で調達した資金はこの他、基礎研究、防衛、インフラ整備など成長と安全のための投資に使う。そうすれば、安倍政権はコロナ禍を転じて、日本再生の機会に変える道が開ける。世界的に財政の役割が最重視される今しかないはずだ。(産経新聞特別記者 田村秀男)

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