同一エリアに集う大学に関連したスタートアップによって構築された関係性は、大学ないしそのエリアへの帰属意識に支えられたコミュニティーであるとする考え方がある。このようなコミュニティーの関係性が、事業を行う者の間で、多様な知識と資金や人材などの経営資源を交換することで「コミュニティー・キャピタル」を形成する。価値の源泉は、大学やスタートアップ、そして個々の投資家などではなく、これら関係性を有する組織や人から成るコミュニティーがもたらす関係性資産であるという考え方である。(東京大学未来ビジョン研究センター教授・渡部俊也)
エコシステム型への転換
このようなコミュニティー・キャピタルが、今後の産業を考えるうえで重要になってきている。その背景の一つに現代の産業のエコシステム型への転換が起きてきていることがあげられる。特にデジタル革命における産業では、プラットフォーマーがハブとなったエコシステム型の構造が散見されるが、海外の例で明らかなようにコミュニティー・キャピタルの発展がこれらの産業にとって不可欠なのである。
シリコンバレーやボストンなどには及ばないが、最近日本でも東大周辺の「本郷バレー」に代表されるように、人工知能(AI)分野中心にスタートアップの集積の経済的価値が増加していることが認識されるようになった。
本郷バレーベンチャーの時価総額合計は1兆円をはるかに超えている。このようなコミュニティーで知識と資金と人材の循環が行われる中で、帰属メンバーの価値観が醸成され、そこに規範が生まれる。その時、このコミュニティー・メンバーの価値観や規範が、将来に向け持続的発展を支えるものか否かが問われることになる。
「コミュニティー・メンバーがSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)に合致する価値観を有しているか」「現下の地政学的情勢に応じて、資本や契約関係のリスクをしっかり統治しようとしているのか」などはコミュニティー全体の価値を左右する。そのようなコミュニティー・キャピタルの価値を向上させ、適切な規範を発展させる具体的手段はどのようなものか。さまざまなプレーヤーから成るコミュニティーであればあるほど、容易ではなくなる。少なくとも中核となる大学と関連機関はその役割を担うべきである。