新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、政府が在宅勤務を含む「テレワーク」実施を求める異例の呼び掛けをした。東京五輪・パラリンピック開催をにらみ、混雑緩和策として準備を進めてきたIT関連企業は積極的に実施する一方、小売りや運輸、工場といった「現場」を抱える企業には困惑も。経済界の対応は割れる。
「職場にいるのと変わらず集中して作業ができた。数年前からテレワークをしており、日常になっています」。NECの人事総務部に勤める三原誠広さん(37)は20日、同社の一斉テレワークに参加し、自宅で働いた感想を語る。
国内でも感染が広がる中、NECは可能な限り、家で仕事をするよう呼び掛けている。20日には、7月に開催が迫る東京五輪と、その後のパラリンピックに向けた予行演習として、全国の社員約6万人が一斉にテレワークした。
長期化も予想される新型肺炎への対応は手探り状態だ。21日以降の対応について同社広報は「一斉にテレワークを強制すれば、いつ終えるかという問題も生じる。今後の政府方針を見極めたい」と話す。
新型肺炎をきっかけにテレワークを強化する企業は多数ある。KDDIは18日以降、国内で勤務する1万6000人にテレワークを推奨。派遣社員も対象だ。IT企業のGMOインターネットは、東京や大阪など都市部の事業所で働く約4000人に先月末から在宅勤務を命じている。ただ、2月10日以降は社外だけでは仕事が難しい職場の1000人程度については出社を認めた。
テレワーク導入は業種間で温度差がある。総務省によると、導入企業は情報通信業で約4割だが、卸売・小売業では約2割。外食やホテルなど対面で提供する接客サービスや工場勤務は実施が難しいという。
こうした企業では、事務系職場でも在宅勤務に対する抵抗感が根強い。運送大手の管理部門で働く男性社員は「本社の社員だけが在宅勤務をすると、現場を抱えるドライバーから不満が出かねない」と打ち明ける。
製鉄所を24時間稼働させる大手鉄鋼メーカーの関係者も「夜間でもトラブル処理をしないといけない。営業も朝早くから顧客対応する。テレワークや時差通勤を今の段階で積極的に取り入れるのは…」と難色を示す。
テレワークの拡大は感染予防だけではなく、働き方改革や災害時の業務継続の観点からも「有効」との見方がある。
中小企業向けにテレワークのノウハウ共有を手掛ける「TDMテレワーク実行委員会」の長沼史宏委員長は「できないと考えている企業にも、実は出社せずにできる仕事は多い」と分析。「介護や子育てとの両立など、多様な働き方の受け皿となるためにも、企業は意識改革すべきだ」と指摘する。
日本テレワーク協会の富樫美加事務局長は「在宅勤務を活用すれば感染を防止しながら、業務が継続できる。過去の災害時にも利用が増えた」と意義を強調。コンサルタント会社テレワークマネジメントの田沢由利社長は「非常事態であり、社員の感染リスクを減らすため、これまでテレワークに踏み出せなかった企業にとっても取り組む大きな契機になるのではないか」と期待を寄せる。