中小企業へのエール

訪日観光客 政府目標と地元住民の悩みの解消

 京都先端科学大、旭川大客員教授・増山壽一

 大阪経済界の方々と話をしていたとき、2025年大阪万博や統合型リゾートなどの話題になった。その中で、「今はどこを歩いていても外国人、特にアジア圏からの観光客が多く、正直おなかいっぱい」という率直な意見を聞いた。大阪だけではない話だ。

 政府が挙げる訪日客目標数は20年4000万人、30年までに6000万人。現状、昨年11月時点で約3000万人を到達しているので、オリンピックイヤーでもある今年は、中国発の新型コロナウイルスの動向も気にかかるが、十分実現可能な数字だ。

 また、日本の潜在能力ならば“1億人”も十分可能とも言われている。ではそのために必要なことは、ホテルなどのインフラ問題や、サービス業に携わる人たちの英語力だけだろうか。一番大事な点は、冒頭のような漠然とした不安の解消であり、そんな声にどう対応していくか、ではないだろうか。

 訪日客目標数と観光地住民の悩みの解消。その両方を達成するためにも、外国からの旅行客には、日本の地方に滞在し、地域の人との交流や文化、自然を楽しむ魅力を知ってもらいたい。

 その取り組みの一つとして「グリーン・ツーリズム」だ。古民家や農村・漁村などでの民泊、寺社の宿坊、ホテル・旅館など地域を総動員し、体験型の観光イベントを通じて、日本の良き文化や作法を感じてもらえるような仕組み作りが大事となる。そして、日本人も地域に改めて誇りを持ち、外国人と接することができる。

 もう一つは、外国人だけが集まるような場所や仕組みを作らないことだ。フランスの、とある三つ星レストランでの話。三つ星といえども最近では、世界中からインターネットで予約が入り、そんな時代だからこその悩みを抱えていた。例えば、予約が中国人であふれ返ってしまうこともあったそうだ。そこで店は考えた。ネットでの予約を全体の半数までとして、残りは特別客やリピーター専用に電話受付をする。その際、予約名やそれとない会話からどの国籍の客か、またフランス語がどの程度できるかを材料にしておく。そして当日のテーブルシート作りでは、予約リストをみて、店内を特定の国籍に限定せず、全体的にフランスの雰囲気を維持できるよう、エネルギーを注いでいるという。

 さらに最後の仕上げは、来店時の服装や身だしなみなどで席を微調整する。これが主人の役目である。日本のサービス業にも、おおいに参考になるのではないだろうか。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。57歳。

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