□ビジネスリノベーション社長・西村佳隆
既存の機能性能を競合他社よりも強化するために開発投資をするのではなく、誰にどんな価値をどう提供するのかという「価値の再定義」をまず考えなければならない。
掃除機の意匠のデザイン性を高くすることで、わざわざ片付けなくてもインテリアの一部として部屋に置いておけるようにする。ここまでなら狭義のデザインだ。ところが、「手間を減らせる」ことに着目して全体をデザインすると、広義のデザインアプローチになる。具体的には、勝手に充電され、本体の片付け不要、ごみは片手でポイッといったものをつくろうという取り組みが価値を生み出す。
製造から流通、購買、使用、廃棄までの全体を見渡した観点だと、例えば充電池の一定期間の利用に対して代金を支払うサブスクリプションサービスはどうだろうか。あれもできる、これもできるではなく、「手間を減らす」視点での一貫した価値提供が大切なポイントだ。
社会システムに目を転じると、「ふるさと納税」がある。寄付金控除は以前からあるが、「自分にとってどんな価値があるのか」という面で分かりやすい愛称が付けられたことにより人気化した。返礼品も「地域の特産物の通販」と見れば以前からあったものだ。
また、シェアビジネスは保有資産にとらわれず、顧客ニーズに応えている。個人向けだと、オフィス、家、車などで「泊まりたい」「移動したい」といったニーズに対応している。企業向けでは、印刷会社をネットワーク化し、注文が入ったらその時に空いている機械を持つ事業者が印刷を請け負い、顧客に早く届けるサービスを展開している。
警備会社は警備そのものではなく、安心を売っている。「呼ばれたら15分以内に駆け付ける」サービスを提供し、契約者は玄関先にシールを貼って外に示す。
介護施設では、利用者の働きを促すために、労働対価として施設内通貨を取り入れている事業所がある。介護施設の利用者に何から何まで世話をすると、その人はできないことが増えてくる可能性がある。利用者が“卒業”もしくは自分でできることを増やすためには自発的に働きたくなる仕掛けが必要で、その結果が機能回復につながるという考え方だ。
「反転授業」というのもある。オンライン講座によって事前に先生の解説を視聴しておき、学校では仲間と議論することで、より理解が増す設計となっている。学校で授業をし、家では宿題で復習をするのとは逆の発想だ。
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【プロフィル】西村佳隆
にしむら・よしたか 横浜国大工卒。ヤマハ発動機、ワタミ、サミーネットワークスなどを経て、2015年ビジネスリノベーションを設立。事業活性化支援を行う。日本医療デザインセンター理事、経済産業省認定経営革新等支援機関、立命館大デザイン科学研究センター客員研究員。著書『ビジネスリノベーションの教科書』で価値の再定義を主張。51歳。京都府出身。