高論卓説

冷めつつあるベンチャー熱 特許権取得多く評価の統一化急務

 昨年、名刺管理のSansan(サンサン)やフィンテックのフリーなどの有名ベンチャー企業のIPO(新規株式公開)がニュースになった。ところが2019年上半期の国内スタートアップの資金調達額は1675億円となっており、18年の4211億円に比べると、やや低調である。下半期の金額が明らかではないので、まだなんともいえないのだが、12年以降伸び続けてきた金額に歯止めがかかった形だ。

 水を差したいわけではないが、ベンチャー熱が冷めつつあると思われる。いずれにせよ、資金を調達しても売り上げが立たないベンチャーは、衰退していくのは自明の理である。一口に衰退するといっても、いろいろな出口がある。破産する会社もあれば民事再生などでうまく復活する会社もあるだろう。また、法的な整理手続きに乗らずにM&A(企業の合併・買収)される会社もあるだろう。

 いずれの局面においても、対象となるベンチャー企業の価値が算定されることになるが、目立った資産がないことも多い。もっとも、最近のベンチャー企業は特許権を取得していることが多いから、こういった特許権が正しく評価されなければ、相当安い金額で買いたたかれることになる。

 当然、売り手のベンチャー側は、自分たちの特許権を高く売りたいので、積極的に価値を評価したい。一方、ベンチャー企業を買う側としては、額面通りに受け取るわけにもいかず、正しく評価したい。もちろん、買う側が対象ベンチャーと同種のビジネスを行っている場合には、その価値をある程度は正しく評価することができるだろう。しかしそうでない場合、相当困難であるといえる。これは、日本では知的財産権の価値評価の実務があまり根付いていないためである。数十件以上の特許ポートフォリオを構築している場合はまだしも、数件の特許しか保有していない場合、かなり価値評価は難しいだろう。それができなければベンチャー企業に投資してきた投資家らは、大きく損を被ることになる。

 11年、米アップルなどが中心となってコンソーシアムを形成し、破産を申請したノーテルネットワークスから特許を買い取った(約6000件で約45億ドル)ことがニュースになったように、米国では特許の売買がオープンにされており、そういった売買を仲介する会社も多数あるため、価値評価の手法もある程度確立しているといってよい。つまり、特許売買のマーケットが存在しているため相場が形成されているのである。これに対し、日本の場合には、特許の売買の事実や金額がオープンになることはあまりなく、秘密裏に行われることから、マーケットが存在しないといってよい。

 したがって、日本においては、特許の価値評価は、素の状態でやるしかない。つまり、その特許に抵触するビジネスが存在するか、そのビジネスのマーケットの規模はどの程度でどのくらいのライセンス料収入が見込まれるか、その特許が無効になるリスクがどの程度あるか、といったことから価値を評価するほかない。ただし、他の手法もあるし統一されているわけではないから、いろいろな手法が乱立するであろう。その結果、正しく評価されることもあれば、そうでないこともあるだろう。待ったなしの状況ではないものの、公的機関が中心となってガイドラインを策定するなど、早期の評価手法の統一化が望まれる。

【プロフィル】溝田宗司

 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。19年2月、MASSパートナーズ法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。

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