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水温分析や餌やり調整、担い手不足カバー 衛星データで漁業を効率化

 人工衛星の観測データを使って漁業を効率化する取り組みが広がっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は地球観測衛星「しきさい」で調べた海水温などのデータを提供。魚が多い漁場の予測や養殖魚の餌の量を調節するのに活用され「深刻化する担い手不足を補える」と漁業者らに好評だ。農業分野でも今後、利用が進む可能性がある。

 しきさいは2017年12月に打ち上げられた衛星で、地球温暖化の予測に役立てるため、雲や大気中のちり、雪氷などを観測するのが主な任務だ。地表の植物の生育や海水温、海のプランクトンの分布状況も調べられる。

 北海道に次ぐ全国2位のホタテ生産量を誇る青森県の産業技術センター水産総合研究所は、19年4月から、しきさいのデータを基に水温分布を色付けした地図を情報サイト「海ナビ@あおもり」で公開。漁師の間で利用が広まっている。ホタテの生息に適した水温は5~22度。記録的な高水温だった10年には収穫前に7割が死滅したことがあるなど、水温は生死に直結する重要な情報だ。青森県ほたて流通振興協会の三津谷武志常務理事は「成長具合や水揚げ時期を見極めるのに欠かせない情報になっている」と語る。

 沖合漁業や遠洋漁業の漁場予測にも貢献しており「マンパワーを効率よく配分でき、燃料代も節約できる」(漁業者)と評判だ。

 ベンチャー企業のウミトロン(東京)は18年から、スマートフォンから遠隔操作できる餌やり機の運用で、しきさいのデータを試験的に活用している。プランクトンや水温のデータに基づき、愛媛県愛南町のマダイ養殖などで与える餌の量を調整。藤原謙代表取締役は「養殖魚が食べる餌の量はその時の海の状態に左右される。観測データから最適な量を計算することで、無駄を減らせる」と期待する。

 農林水産省は19年10月、農地の利用率調査や災害時の被害把握でさまざまな衛星のデータを活用することを目指し、JAXAと連携協定を締結した。ダイズやトウモロコシといった穀物の作柄予測に、日射量や地表の温度のデータを役立てるための共同研究も進める。

 農水省食料安全保障室の担当者は「米国では、衛星データを使った収量予測技術が進んでいる。日本でもシステムの開発に取り組みたい」としている。

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