アメリカで最も人気のあるプロスポーツリーグNFLが終盤戦を迎える。今シーズンはここ数年その頂点を決めるスーパーボウルを制覇してきたニューイングランド・ペイトリオッツがプレーオフ1回戦で姿を消した。強いチームが君臨しつつもNFLが掲げる「戦力均衡」が見て取れる。そもそも戦力均衡とは、フランチャイズの市場規模やチームの財務状況に委ねることなくチーム戦力を均等に保つことにありアメリカプロスポーツリーグが掲げるフィロソフィーでもある。そこには2つのミッションが存在する。(帝京大学教授・川上祐司)
米リーグの生命線
1つはオン・フィールドでの均衡。もう一つは、チームの財務力の均衡である。これらによって毎年どのチームが優勝してもおかしくない状況を作り出し、最高のレベルで戦力均衡したチームが繰り広げる競争状態によって多くの魅力ある商品の「試合」を提供しているのである。つまり戦力均衡はアメリカのプロスポーツリーグの特長でもある昇降格のない「クローズドリーグ」の生命線である。実際、昨年の夏にNFL本部を訪問した際に担当者は「More “Worst-to-Firsts”」をキーワードに最下位から上位に進出したチームは25チームに上ることを強調した。これらのチームのフランチャイズ都市の恩恵は単に歓喜だけの世界ではない。
先日行われた本学経済学部ゼミナール発表会にてゼミ生より英サッカープレミアリーグにおける戦力均衡と観客動員数との関係について興味深い内容が発表された。ここ数年、戦力差が顕在化する同リーグだが各チームの平均観客動員数に大きな差が見られないという。同リーグでは、アメリカプロスポーツリーグと違い昇降格がある「オープンリーグ」である。常に上位チームはビッグ5と呼ばれる日本でも名の知れたクラブが占める。そのオーナーたちは海外の大富豪たちであり資金繰りは順調だ。
では、実際に今シーズンのレギュラーシーズンの勝率から標準偏差を用いて戦略均衡度を測定してみる。数字が小さくなるほど戦力に差がないことを示す。NFLは1.579で、ここ数年大きな変化はなく戦力均衡状況が継続されている。一方、英国プレミアリーグは2.566で年々上昇している。しかし、昇降格を繰り返す下位チームのスタジアムにも多くの地元ファンたちで埋め尽くす。英国では、スポーツの過大な商業化に対する見直しの機運が高まる中で、スポーツクラブは公共財として、下部リーグの多くのチームはソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)として地域との関係性を高めながら人々のつながりに貢献している。