香港で「独自特許」(OGP)制度が昨年12月に始まった。発明者は特別行政区政府知識産権署(HKIPD)への直接出願で特許権獲得が可能になった。今後、各国企業の対中知財戦略で活用されることになりそうだ。
従来、香港で特許権を得る場合、発明者が英国、中国の特許庁、また欧州特許庁(欧州特許として英国で権利保護指定する場合)へ出願し、特許性を問う実体審査を経て、現地登録された特許権をHKIPDへ再出願し、書類だけの形式審査を経て登録する標準特許(権利期間20年)。発明者がHKIPDへ出願、形式審査だけで登録する短期特許(同8年、日本の実用新案に当たる)の2つがある。両特許は今後も存続する。
OGPは、HKIPDへ出願し、独自の実体審査を経て付与される。権利期間は20年間。再登録方式の標準特許よりも手間や費用が効率化できる利点がある。注目はHKIPDが独自に実体審査する点だ。HKIPDは、新制度導入に伴い、特許審査に関する手引きは示しているが、個々の案件をどう処理するか。「他特許庁なら拒絶する発明を香港で特許として認める可能性がある」(香港の知財弁護士)という意味は大きい。
どの国の特許庁でも、発明の特許性について世界の調査情報を集めて実体審査するが、特許権は各国特許庁が国内で認める属地主義上の権利で、同じ発明が必ずしも各国で同じ扱いを受けない。つまり、HKIPDの姿勢が中国寄りか、中立か、香港独自かでOGPの価値は変わる。鍵は、誰がどんな審査官を任命するかだ。
現在、香港の特許(標準特許)出願件数は1万5986件(2018年)で、中国の100分の1、日本の20分の1にすぎない。今後、香港で質の良いOGPを数多く得ることができれば、外国企業は香港での権利行使や侵害訴訟を活発化できる。それは外国企業が不利な中国本土での係争を避ける、もしくは中国本土決戦を前に有利な判決や命令、証拠を香港で得られやすくなることを意味する。「香港は世界貿易のハブ。中国企業・グループが集積している点が重要。中国本土の企業を最初に香港で訴える戦略が描ける」(北京の知財弁護士)との指摘もある。
当然、香港の裁判所の今後のあり方も注目されるが、知財裁判を担当する香港高等法院は現在、知財裁判専門の対応力を高める方向で動き始めている。今年は民主化運動と同様、知財の世界においても、香港の特別行政区政府の出方が問われることになる。(知財情報&戦略システム 中岡浩)