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価値の再定義によるイノベーション

 多くの企業が「競争力向上」という“壁”に直面している。これに対して、価値を再定義するという視点から、解決策を見いだしていきたい。例えば、財務指標だけでなく、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視し選別するESG投資が世界的に急拡大している。電力会社でいえば、電力がESG投資を呼び込むという価値を具備することもある。太陽光発電などの再生可能電力を採用した企業に対してESG投資がなされるケースで、これが価値の再定義によるイノベーション(革新)だ。(ビジネスリノベーション社長・西村佳隆)

 経済産業省・特許庁は2018年5月、「『デザイン経営』宣言」と題する報告書を発表した。「産業競争力とデザインを考える研究会」による提言をまとめたもので、ブランディングやイノベーションに向けたデザインを重視し、「顧客に真に必要とされる存在に生まれ変わらなければならない」と、課題や実践の指針を示した。

 筆者は、デザイン経営について、「ビジネス構想+ブランディング+意匠などのデザイン」と説明している。具体的には、(1)顧客にとってのサービスや商品の本質価値をつくる(2)その価値が顧客にとって魅力的に見えるように表現する-という2つの側面がある。デザインというと一般的には色や形などの意匠を想起し、(2)を認識してきたが、(1)の方が重要であり、(2)は(1)を表現するための手段でしかない。

 一方、イノベーションによる企業の競争力強化については、デロイトトーマツコンサルティングが16年2月に「イノベーションマネジメント実態調査2016」の分析結果を発表した。「なぜ日本企業はイノベーションが苦手なのか」について述べたものだ。

 これによると、持続的成長のためには(1)計画の効率的な実行(2)実験と学習の反復-の両輪が必要だが、日本企業発イノベーションの阻害要因は「長年染みついた片輪走行経営ではないか」と喝破している。(1)ばかり進めていて、(2)を何もしていないというわけだ。さらに(2)には「既存事業への革新的な付加価値の提供」と「市場の破壊と創造」があり、これを推し進めるためには実験と学習の反復(トライ&エラー)が必要だという。筆者は、完璧を求め小さなミスも許さない企業風土が、イノベーションを阻害していると分析している。

 企業競争力を強化するためにはデザイン経営、イノベーションが必要で、本質的な価値を創造しなければならない。この連載では、その突破口が「イノベーションよりリノベーション」という考え方であることを解説する。

【プロフィル】西村佳隆

 にしむら・よしたか 横浜国大工卒。ヤマハ発動機、ワタミ、サミーネットワークスなどを経て、2015年ビジネスリノベーションを設立。事業活性化支援を行う。日本医療デザインセンター理事、経済産業省認定経営革新等支援機関、立命館大デザイン科学研究センター客員研究員。著書『ビジネスリノベーションの教科書』で価値の再定義を主張。51歳。京都府出身。

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