産経新聞客員論説委員・佐野慎輔
開幕まで7カ月を切った東京オリンピック・パラリンピック競技大会。国立競技場が完成し、各競技で代表選手の内定が報じられるなど準備は着々と進む。さて大会成功の鍵を握るのは何だろう。選手の活躍、ボランティアの奮闘に円滑な運営、そして観客の盛り上がり…。そうした目に見える“光景”を下支えするのが予算である。
スポーツ関連は最高
政府は20日に2020年度予算案を発表した。一般会計の歳出総額は102兆6580億円、8年連続して過去最高を更新した。個人的に気になるのがオリンピック・パラリンピック関連の予算である。
スポーツ関連予算は前年度から11億円増の351億円。過去最高値となった。競技力向上事業に101億円を計上。海外遠征などの支援に前年度より1億円増えた。
さらにメダル獲得の可能性が高い競技を重点的に支援するハイパフォーマンス・サポート事業は前年度から9億円上積み、22億円を盛り込む。選手村近くに拠点を設け、最新のスポーツ医学に基づく体と心のケア、栄養面でのサポートなどを行う。
日本オリンピック委員会(JOC)は金メダル30個、日本パラリンピック委員会(JPC)も金メダルランキング7位以内を目標に置く。12年ロンドン、16年リオデジャネイロ両大会で成果を上げたハイパフォーマンス・サポートにかける期待は大きい。
ドーピング防止活動推進事業には3億円計上された。反ドーピング教育や研修費、検査技術の研究開発を促進する。日本は世間が思っているほど反ドーピング先進国ではない。1回当たりの費用が高いことも手伝い、検査実態は欧米に後れを取る。検査のための医療施設、検査技師不足もあり、日本反ドーピング機関(JADA)は東奔西走する。開催国として、20年の後を見据えたとき、この分野でのさらなる支援が必要だ。
スポーツ関連ではなく観光関連として20年大会と関わる事業予算もある。顔認証ゲートの導入など訪日客の出入国環境の整備費117億円、チェックインや搭乗手続き簡略化に向けた補助事業32億円などだ。競技会場最寄り駅のバリアフリー化促進や多言語対応、Wi-Fi整備なども含まれ、「にぎわい創出」へ効果を期待したい。
大会は年度途中の9月で終了する。スポーツ関連予算は減額も予想されたが、スポーツ庁が頑張った結果である。ただ、再来年度の大幅な減額は避け難い。ポスト2020をどう計画していくか。対策は待ったなしだ。
直接経費押さえ込み
同じ日、20年大会の最終予算計画も発表され、大会運営に関わる直接経費は昨年末に示された予算計画第3版と同額の1兆3500億円で確定した。内訳は東京都の負担だった競歩の関連費を札幌移転に伴って組織委員会に付け替え、組織委員会6030億円、都5970億円、国1500億円。暑さ対策費や輸送に関わる整備費など予算額が増える要素もあったが、調整費・緊急対応費などに振り替えて必死に押さえ込んだ。理由は国際オリンピック委員会(IOC)の介入である。近年、招致に名乗りを上げる都市が減少。大会経費の負担増が理由に挙がる。IOCは東京に上限を守るよう厳命し、傷口を糊塗(こと)しようと狙う。組織委員会の苦労がしのばれよう。
さて、東京大会の成功にどれだけの資金が投入されるのか。関連費用を含めて3兆円ともいわれる中、ポスト2020に生かす道も考えなければ…。
【プロフィル】佐野慎輔
さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』『オリンピック略史』など多数。