中小企業へのエール

インバウンド対策 東大の学生食堂から見るグローバル化

 旭川大学客員教授・増山壽一

 久しぶりに母校である東京大学の食堂へ行った。そこはまさしく、1968~69年にかけて、先鋭化する学生運動家によって占拠され、ついには大学の自治を破り警視庁特別機動隊が封鎖解除を強制的に行った、あの安田講堂の地下食堂だ。

 関東大震災を挟み、25年に完成したこの講堂は、安田財閥の創始者である安田善次郎氏の寄付によるものであった。当初その寄付は匿名として隠されていたが、彼の死後明らかになり、その遺徳をしのんで“安田講堂”と呼ばれることになった。

 安田講堂事件以降、学生運動への対応もあったのであろう、その地下に巨大な地下中央食堂が建設され76年に完成し当時比類ない近代的な食堂であった。私は81年に上京し、「近代的でしかも安い」と感激し苦学生の最後のよりどころになっていた。

 その食堂が昨年、完全リニューアルし、エレベーター完備のユニバーサルデザインとなった。メニューは完全デジタル映像化、しかもハラルやベジタリアン対応メニューもある国際対応だ。ちょうど昼時で、学生や職員がほとんどであるが、利用者の約半数は外国人である。外国人留学生が現在4000人を超え、6人に1人が外国人となっている東京大学の学内は、まさにグローバルでさまざまな言語が飛び交い、そして笑顔や笑い声に満ちあふれている。

 毎年、英国の教育専門誌「THE Times Higher Education(THE)」が発表する国際大学ランキングによると日本の知的最高峰東京大学は、順位を上げつつあるとはいえ最新版(2020年版)では36位(前回発表の42位から上昇)でしかないと評価されている。

 しかし、この食堂での安さ、おいしさ、知的な雰囲気を見ると、日本の大学に再飛躍の可能性を感じる。特に目を引いたのが、入り口近くにある「ポケットチェンジ」という外貨両替機である。設置したのはスタートアップの会社だ。

 この両替機は世界10通貨に対応しており、Suica(スイカ)などの電子マネーで受け取れる。自国から持ってきた通貨や、留学生の親が来日しこの食堂を利用する際に不安もなく利用できるのである。母校の食堂で、さりげないおもてなしの心を見たような気がした。

 日本各地で、さまざまな国からのインバウンドにどう対応したらいいか悩める方は、ぜひ一度、東京大学・安田講堂の中央食堂に行ってみてはどうか。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。57歳。

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