講師のホンネ

人気者になっても幸せになれない 密接な人間関係をおろそかにしないで

 フランスの小説家、スタンダールは「広く好かれれば好かれるほど深くは好かれないものだ」と言った。彼は人間の幸福とは何かを追求した名言を数多く残した作家として知られる。みんなに好かれたいという欲求は人間の本能的なもの。誰しもアイドルや歌手を夢見る時代がある。大人になってからも、嫌われたくないがゆえに苦しい毎日を送っている人は驚くほど多い。(伊豆はるか)

 嫌われないように必死で立ち回って疲弊する上、一時的に好意を集めたところで、好感度を維持するのは並大抵のことではない。嫌われることが許されない人気商売というのも大変な仕事である。CMに引っ張りだこの人気タレントが、不倫や薬物などのスキャンダルでテレビ画面から消えうせる。それまでもてはやしていた世間は、態度を豹変(ひょうへん)させ批判を繰り返す。好感度を重視するスポンサー企業に配慮し、負のイメージがついたタレントは半永久的に仕事を失う。

 一方、テレビやCMではなくライブや楽曲売り上げが主な収入となるアーティストはどうだろう。彼らは、好感度で企業に仕事をもらうより、作品を愛するコアなファンに支えられて活動している。そのため、スキャンダルで一時的に批判されたとしても、結果的にダメージはさほど大きくならない。「深く好かれている」ことの強みと思う。

 近年、世間を騒がせた男性歌手と女性タレントの不倫を例にとってもよく分かる。コアなファンに熱狂的に支持される歌手より、好感度が重要なタレントは圧倒的にダメージが大きかった。「広く好かれること」は幸福の条件でないどころか、ときにリスクとなりえる。嫌われないために、常に他人の期待を裏切らないよう行動していると、徐々に自分らしさを失っていく。すると皮肉にも、誰かに「深く好かれる」機会を逃すことになり、逆に脆弱(ぜいじゃく)な人間関係の原因となってしまう。実は、最も幸福を左右するのは、深く狭い人間関係の質である。どんな状況でも支え、応援し続けてくれる限られた人たちとの関係だ。人気を得ることに必死になって、真の幸せの鍵である密接な人間関係をおろそかにしていないだろうか。このクリスマス、本当に大切な人たちに心のこもったプレゼントを届けるのはまだ遅くない。

【プロフィル】伊豆はるか

 いず・はるか 兵庫県出身、精神科医・3児の母。慶大在学中に会社を設立し、塾や飲食店を経営。社長業の傍ら医学部入学。33歳で医師免許を取得。現在は精神科医・訪問診療医として働きながら、女性の新しい生き方を提案する「マルチライフプロジェクト」を主宰。現実的かつ具体的手法で女性を導く講座は毎回満席。

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