大学発の知財を活用して、オープンイノベーションを戦略的に進めるため、有力大学は先端的な特許情報検索ツールや新たな知財専門人材の導入を始めている。
東工大、鳥取大、広島大など6校はこれまでに日本特許情報機構が提供する世界特許情報全文検索サービス「Japio-GPG/FX」(以下GPG)を設置した。東北大、長岡技術科学大、奈良県医科大など28校は、大学知財の専門家である「知財戦略デザイナー」の採用を決め、10月から本格的な活動を始めた。
オープンイノベーションとは、企業や大学などが組織、分野、地域・国などの垣根を越えて連携し、新たな社会的価値や技術、製品・サービスを創造する活動だ。大学では、研究者の専門知識や技術の提供・移転、共同研究の実施などを通じ、社会貢献としてだけではなく、研究費やライセンス収入の獲得に結びつけている。
しかし、社会実装や経済価値創出では、大学はその力を十分発揮していない。知財マネジメントの意識が特許権獲得止まりで、活用まで至っていないことが一因だと、大学関係者などは指摘する。結果、知財戦略策定、発明発掘、保有特許群組成、特許出願動向・侵害調査、外国特許文献調査など、本格的な知財業務を推進するためのツールや人材の整備も十分ではなかった。
「わが校の特許に相対的な優位性があるか、近くに出願をしている他のプレーヤー(企業や大学)はどこか。基礎的な特許情報の分析は不可欠だ。また、(激増中の)中国特許文献は多くの研究分野で無視できないレベルにある」と指摘する東工大・オープンイノベーション機構の大嶋洋一教授はGPG導入を推進した一人だ。GPGでは来年4月以降、難解な中国語文献を高精度な日本語にその場で翻訳するAI翻訳サービスの提供が開始される。
知財戦略デザイナーは、大学の要請で特許庁が派遣する。「研究者が目指す社会実装が共同研究か、起業か。もっと研究者に寄り添った知財戦略を描くことが必要」とは、担当の船越亮・知的財産活用企画調整官。
東北大産学連携機構の西村直史特任教授は「どの大学にも技術移転の歴史や成果があるが、進化が必要。今後は知財現場に応じて研究を回し、好循環を生むことが重要。知財戦略デザイナーと協同し、さらに上流(発明に至る前段階の研究シーズ)から支援を強化したい」と、知財マネジメントのさらなる高度化を図る考えだ。(知財情報&戦略システム 中岡浩)