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日本製鉄、大リストラ序章か 組織再編断行、統廃合・人員削減へ布石

 鉄鋼国内最大手の日本製鉄が、大規模な組織再編に乗り出す。国内に16カ所ある製鉄所や製造所を、2020年4月1日付で6つにまとめるのが骨子だ。製品である鋼材価格の下落や原料の値上がりに加えて、自然災害などによるトラブルにも直面し、苦しい経営を余儀なくされている同社。将来的には、拠点の統廃合や人員削減に踏み込むとの見方が強い。

 「雨による被害は土嚢(どのう)を積んだりしたのでほとんどなかったが、所内の風速計が過去最大を示すほどの風が吹いた」

 11月28日に千葉県君津市の君津製鉄所で行われた報道関係者向けの見学会。同製鉄所の小倉順広報センター長は、9月初旬の台風15号で受けた被害についてそう説明した。被災後の公開はこれが初めてという。

 相次いでトラブル

 君津では強風で、第一製鋼工場にある高さ約70メートルのガス処理用の煙突(燃焼放散塔)が倒壊。幸い人的被害はなかったものの、同工場は今も生産停止中で、復旧には年内いっぱいかかる見通しだ。見学コースから離れているため確認することはできなかったが、耐久性を高めた新しい煙突を建てている最中という。

 製鋼工場は、高炉でつくられた銑鉄を鋼に精錬する工程を担う。君津には製鋼工場が2つあり、第一製鋼工場の生産能力は年180万トン程度と、第二製鋼工場(約620万トン)より少ないとはいえ、ストップすれば製鉄所全体の生産が落ち込んでしまう。このため同社は他の製鉄所の生産量を増やす一方、競合他社に代替生産を依頼した。

 ここ数年の同社は、何かにたたられているとしか思えないほど、トラブルが頻発してきた。君津は5月にも落雷の被害を受けたばかり。子会社の日鉄日新製鋼が運営する呉製鉄所(広島県呉市)では8月に火災が発生し、製鋼工程の一部が停止。こちらは復旧の見通しすらたっていない。

 ただでさえ鉄鋼業界は、鋼材価格が落ち込んでいるにもかかわらず、原料の鉄鉱石価格が値上がりしてコストがかさむ「ダブルパンチ」で、利ざやが確保できなくなっている。そのうえトラブルが降りかかっているとなれば、まさにお手上げ状態だ。

 同社は11月1日、20年3月期の本業のもうけを示す事業利益の予想を1500億円から1000億円(前期比70.3%減)に下方修正した。鉄鋼メーカーの実力を示すとされる、一過性要因を除いた単独の事業損益に至っては、3年連続で赤字となる見通しだ。

 危機的状況を受けて、同社は同じ日に国内製鉄所の組織再編を発表。君津や鹿島製鉄所(茨城県鹿嶋市)は「東日本製鉄所」、大分製鉄所(大分市)や八幡製鉄所(北九州市)は「九州製鉄所」となる。1901(明治34)年に官営製鉄所として操業を開始し、製鉄業の近代化に貢献した八幡は「九州製鉄所八幡地区」となり、名前が消滅することとなった。

 宮本勝弘副社長は再編の狙いを「現場の自立性、効率性を高め、『作る力』の再構築を図るため」と説明する。

 再編発表に先立つ10月3日には、日鉄日新製鋼の吸収合併も発表している。日鉄は日鉄日新製鋼を2017年3月に子会社化し、今年1月に完全子会社化したばかり。両社の融合は済んでいないはずだが、あえてスピードを最優先した。発表文では環境が悪化している現状を記した上で、事態打開のため「従来以上に踏み込んだトータル最適を追求する施策を早急に検討・実行していく必要がある」と説明。危機感に満ちた表現は業界他社の間で話題となっていた。

 地域経済に影響甚大

 もっとも、単に組織を一緒にしただけでは効果にも限界がある。そこで浮上しているのが、再編が将来的に実施する拠点の統廃合や人員削減の布石とする見方だ。実際、宮本副社長は「当然効率化をやるわけなので調整検討していく」と言い切る。

 製鉄所は他の業種の工場より従業員数が多いだけでなく、協力会社や業者が多数出入りしている。仮に拠点閉鎖ともなれば地域経済への影響は甚大だ。このため関係者は、固唾をのんで動向を見守っている。(井田通人、桑原雄尚)

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