金融

自転車保険の加入率56%にとどまる 国が条例制定での義務化を後押し

 自転車の利用者やレンタル業者に、損害賠償保険の加入を義務化する条例を制定する動きが広がっている。健康ブームもあり利用シーンが多様化する一方、事故をめぐる高額賠償判決が相次いでいるからだ。国が制度化を見送り、条例制定を後押ししていることも背景。ただ、各地の条例には罰則がなく、専門家は「いかに保険の大切さを伝え、加入を促せるかが鍵になる」と指摘する。

 「自転車保険、ちゃんと入っていますか」。11月中旬、鹿児島市の自転車販売店で、店員の加藤武伸さん(21)が、客の男子大学生に尋ねた。鹿児島県は2017年に加入を義務付ける条例を施行。加藤さんは「けがをさせ治療費を払えないことが一番問題なので、保険を勧めています」。

 国土交通省によると、自転車関連の事故は17年、対歩行者が2550件、自転車同士が2749件でいずれも前年より増加。神戸地裁は13年、歩行者をはね重傷を負わせた事故当時小5の男児側に約9500万円の支払いを、東京地裁も翌14年、歩行者をはね死亡させた男性に約4700万円の賠償を命じた。

 こうした状況を受け、兵庫県が15年、全国に先駆け条例で保険加入を義務化し、各地で制定が進む。国交省のまとめでは今年11月時点で「義務」としたのは兵庫を含む11都府県、7政令市。「努力義務」としたのは13道県、3政令市となった。損害保険会社が扱う商品では、月数百円、または年数千円の保険料で最大数億円の賠償が可能なものがある。

 都市部でシェアサイクル事業の参入が増え、観光客や訪日外国人向けのサイクルツーリズムが普及するなど利用者や用途は広がり、車種もスポーツタイプや電動アシスト付きなど多彩になっている。福岡県は努力義務から義務とすることを検討し、留学生らへの啓発も課題に挙げている。

 福岡市では、シェアサービス「メルチャリ」が昨年2月に始まり、運営会社によると、利用者は月延べ約14万人に上る。1分4円の料金には保険が付帯され、担当者は「安心安全な移動に保険は欠かせない」と話す。

 国は保険加入の制度化を検討したが3月、「制度づくりは非常に困難」と結論付けた。各地の条例にも強制力が乏しい。au損害保険の昨年12月~今年2月の調査では、加入率の全国平均は56.0%。義務化した地域では平均64.3%と、義務化していない地域を約15ポイント上回った。義務化しても全国平均以下の地域もあり、同社の担当者は「広報活動の在り方が影響した」とみる。

 日本大の轟朝幸教授(交通システム工学)は「自治体は保険に入らないリスクを強調するだけでなく、加入者が駐輪場を安く使えるようにするなど、入りたくなるアイデアを考えることも大事だ」と話している。

【用語解説】自転車保険

 自転車事故で相手にけがをさせた際などに損害を補償する保険。損害保険会社がインターネット、コンビニなどで扱う。整備された車体に適用されるTSマーク付帯保険や、車や火災の保険の特約に含まれるケースもある。主な条例は自転車利用者や保護者、従業員に使わせる事業者、レンタル業者らに加入を求める。加入状況を把握していない人も多く、自転車販売店や事業者に確認するよう努力義務を課す。

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