知的財産経済アドバイザー・山内勇氏に聞く
欧米の特許庁では、統計学やプログラミング技術、計量経済学などを駆使し、知財動向や政策について経済学的に分析し、政府・行政へ助言するチーフエコノミストが在籍している。日本版チーフエコノミストである特許庁知的財産経済アドバイザーの山内勇氏(明治大学情報コミュニケーション学部准教授)に聞いた。
--知的財産経済アドバイザーとは
「知的財産や特許制度が経済やイノベーション(新たな社会的価値を生み出すこと)にどう影響を与えているかを経済学的に研究し、政策立案者へエビデンスを提供している。高名な経済学者である長岡貞男先生と後藤晃先生に若輩の私を加え3人いる」
--エビデンスとは
「データを使って統計的に分析し、相関と因果の関係を洗い出すことだ。近年、はやっているIPランドスケープは相関の塊だが、政策を実行するには因果まで分析しておく必要がある」
--具体的な仕事は
「メインは実証研究にある。昨年は実用新案権の新たな活用方法や制度のあり方を検討するため、実体審査が廃止された1993年を境として、出願人や出願分野がどう変化したかを研究した。今年は共有型特許システムにおいて開放された特許の利用を促進するには何が必要かという問題意識の下、米IBMやトヨタなどが行った特許開放の事例について分析を始めている」
--実証研究で難しい点とは
「相関の背後にある因果の特定をすること。対象を絞れば因果の特定はある程度可能になってきており、それら個別の研究成果が蓄積されれば一般的な見解を示せるが、まだその段階には達していない。従って、特許制度かイノベーションに役立っているかどうかの結論は、実は出ていない」
--研究者としての今後のテーマは
「最終ゴールは、イノベーションをいかにして促進するか。そのツールとして知財制度を考えている。現在の制度の評価にとどまらず、イノベーション促進のためにはどういう制度が望ましいか、という方向の研究へ進みたい。もしかすると国による中央集権型ではなくなり、民間から新たな制度を作る試みが出てくるかも。そのあり方をどうしていくかは非常に重要な研究課題である」(知財情報&戦略システム・中岡浩)