「タピオカが流行すると不況になる」といった話を聞いたことはないだろうか。株価や景気の動向と、特定の食べ物の流行や有名芸能人の結婚といったトレンドは、定期的に関連付けられて話題に上る。株価に関心の高い人には特になじみのテーマかもしれない。
タピオカのように世間ではまだ知られていないが、やはり不景気になると売り上げが伸びてしまう食べ物が実はまだ存在する。からさが売りのロングセラーのスナック菓子「カラムーチョ」(湖池屋)だ。単なる偶然か、それとも背景に深い法則が隠されているのか……。同社の独自データを元に迫った。
バブル崩壊、リーマンショック時も出荷額増
下記のグラフは、湖池屋が算出したカラムーチョの出荷額推移と、内閣府発表の景気動向指数の遷移を約25年にわたって重ねたグラフだ。カラムーチョ出荷額の具体的な数字は非公表だが、長期的に見て緩やかな上昇傾向にある。
青線で示される景気動向指数が下がるタイミングで、赤線のカラムーチョ出荷額が逆に伸びているのが見て取れる。古くは1991年以降のバブル崩壊、近年では2009年のリーマンショックの影響で景気動向が悪化すると、なぜかカラムーチョの売り上げが好転している。例えば08年8月~09年9月の1年間の出荷額は、リーマンショック前の14%増となった。
一般的に生活必需品である食品は、高額で不要不急な他ジャンルの商品より景気の影響を受けづらいとされる。ただ、スナック菓子は嗜好品としての側面も持つ。少なくとも、売り上げがこれほど景気動向と真逆の傾向なのはちょっと奇妙だ。
ちなみに全日本菓子協会のデータでは、スナック菓子全体の小売り金額はここ10年以上、おおむね微増・横ばい傾向にある。やはりカラムーチョの出荷動向のように景気と逆の動きは示していない。
メーカー側はこの“法則”をどう分析しているのか。カラムーチョの販促を手掛ける湖池屋マーケティング部に聞いたところ、大きく分けて2つの要因を想定しているという。
「ストレスで刺激求める」「家飲み需要増」仮説
1つ目は、「不景気の際には消費者がストレスを感じるので、刺激物を求める」という説だ。マーケティング部第1課課長の加藤俊輔さんは「辛味は味覚というより『痛覚』の一種のようなもの。かゆみを感じた人が(局部をかいて)別の痛みでごまかすように、ストレスを感じた人はそれを緩和させるため、刺激のある食べ物で痛覚を『上乗せ』させるのではないか」と説く。
加藤さんによると、カラムーチョが発売された1984年は「第一次激辛ブーム」の時期に当たる。86年には「激辛」という言葉が日本新語・流行語大賞にも選ばれた。同商品は、「からさをコンセプトにしたスナック菓子」のはしりとしてトレンドとなり、消費者に浸透していった。同時期に急拡大したコンビニで取り上げられた点が大きかったが、「不景気で消費者が感じるストレス」も一役買っている可能性があるという。
加藤さんら湖池屋のマーケッターたちが法則の理由としてもう1つ挙げるのが、「不景気の際には消費者が外食を控えて家飲みが流行るため、カラムーチョがおつまみに選ばれている」説だ。実際、カラムーチョのメーンユーザーはほぼ一貫して20~30代で、お酒と一緒に食べている人も多いとみられる。
飲料業界でも、体感景気が悪化するとアルコール度数が高めで安く酔える「高アルコール飲料」が売れるというのは、よく知られた話だ。スナック業界においても、味がからく濃厚でおつまみとしても「コスパ」高めと言えるカラムーチョが売れるのは、確かに理屈に合っていると言えなくもない。