オープン&クローズ戦略とは、自社の経営資源を2分割して、一方はオープン、つまりは自社技術などを他社に提供することで市場を形成し、一方はクローズ、つまりは知財権などを自社のみが利用できるという条件を整えることで収益化を図るといった戦略を指す。グローバル企業はしばしばオープン側の戦略展開地域に新興国を選んだ。例えば米半導体大手インテルやクアルコムは、台湾や中国などの企業に技術をオープンに提供したことで新たな市場を獲得することに成功した。(東京大学未来ビジョン研究センター教授・渡部俊也)
新興国企業を技術の担い手として位置づけるこの戦略は「いかなる地域といかなる技術でも自由に移転できる環境」を前提としている。しかしこれは過去いつでも可能であったわけではなく、ここ数十年がむしろまれな時期であったといえる。
さかのぼること、東西冷戦の時代は、それぞれの陣営において別個に発展してきた科学技術に関する知識は、その境界を超えることなく厳格に管理されてきた。冷戦終結後このような枠組みは見直され、機微技術を管理する体系がつくられたが、一方、技術の流通の経済圏は世界の隅々に広がりフラット化していく。その結果「世界中の多くの技術に自由にアクセスできる環境」が現実のものとなった。欧米企業は新たなその環境を最大限利用し、新興国企業をパートナーとする「オープン&クローズ戦略」を展開し、その成功によって巨額の利益を得た。