日産自動車の西川(さいかわ)広人社長が早期の退任意向を示した。不正報酬問題の発覚で社内外からの批判が強まって求心力が低下し、経営のかじ取りを長期的に担い続けるのが難しくなったとの判断による。
会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された前会長、カルロス・ゴーン被告の事件に続く不祥事で、日産のブランドイメージの更なる後退は避けられない。トップをめぐる混乱が長引けば、企業連合を組む筆頭株主、仏ルノーとの資本関係をめぐる交渉にも影響しそうだ。
4日夜に西川氏の不正報酬が発覚したが、日産社内からは「(6月発売の月刊誌『文芸春秋』の報道で)既に出ており、今さら大騒ぎする話ではない」として、問題は早々に収束できるとの楽観論まで出ていた。社内調査結果を報告する9日の取締役会でも、当初辞任は求めない方向になっていた。
しかし、ゴーン被告による会社の「私物化」を指弾してきた西川氏自身の不正だけに、問題発覚後に噴出した批判は予想以上に厳しかった。
西川氏は5日朝に不正報酬を釈明した際、他の複数の役員にも同様の行為があったと明らかにした上で「ゴーン体制時代の仕組みの一つだ」と強調。自身の不正さえも、ゴーン被告の責任に転嫁した姿勢は潔さを欠いていた。
社外取締役からは「西川氏の問題は法律違反ではなく、ゴーン被告の犯罪とは全く違う」という指摘もあったが、一般の消費者にとってはいずれも報酬に関する不正であることに変わりはない。車という高額な商品を販売する自動車メーカーにとって、ブランドイメージは極めて重要だ。
「ルノーとの関係にも影響してしまう」。日産関係者からは懸念の声も聞かれる。筆頭株主のフランス政府の意向もあり、日産との経営統合を模索するルノーに対し、西川氏は「お互いに自立性を尊重しながらシナジーを最大化すべきだ」と拒否してきた経緯がある。
企業規模で上回る日産が、資本関係では事実上ルノーの傘下に置かれており、日産は資本関係見直しを目指すが、トップ交代をめぐり混乱が続けば交渉力を削がれそうだ。西川氏は当面、社長を続ける意向を示しているが、退任を表明したトップが描く長期的戦略は説得力を持ちそうにない。
日産はトップの交代時期を明確にし、早期に強固な経営体制を構築する必要がある。(高橋寛次)