JR東海が令和9年開通を目指すリニア中央新幹線の予定通りの開業が危ぶまれている。南アルプスを貫通するトンネル工事で重要水源である大井川の水量が減少するとのおそれに加え、JR東海の緩慢な対応への不信感から、静岡県が着工を認めていないためだ。一方、開業効果に期待する沿線他県からは静岡県への苦言も出ている。静岡県の真意は見返りにあるとの観測もあるが、両者の間の溝は深い。
「名古屋までの開業に影響が出れば、大阪までの開業時期にも影響を及ぼしかねない」。今月7日、大阪市で会見したJR東海の金子慎社長は静岡工区の未着工問題に危機感を示した。
リニアのルートで静岡県内を通るのは北部の山間部のみ。駅もできず、約25キロの南アルプストンネルのうち静岡工区は約9キロにすぎないが、静岡県が着工認可をおろしていないことがネックになっている。
両者の軋轢(あつれき)はJR東海が「工事完了以降、大井川の流量が毎秒2トン減少する」との試算を公表した平成25年9月までさかのぼる。静岡県によれば、大井川を利用する約60万人分の生活用水に相当し、上流域では川が干上がるなどの問題も想定されるという。
その後、JR東海はトンネル工事でわき出た水の全量を大井川に戻すことを明言し、両者の協議が始まった。しかし流量減少の試算公表から5年もの月日がかかったことで、静岡県の不信感は拭いがたくなった。
JR東海は「環境変化は実際にトンネルを掘ってみなければ分からない」と早期の認可を求めているが、静岡県幹部は「JR東海はこちらが要望した県内でのボーリング調査さえ行わない。本気で対策を考えているのか疑わしい」と話す。難波喬司副知事は「静岡県のせいで工事が遅れているという印象を持たれるのは迷惑」と語気を強める。