高論卓説

高校球児の登板回避に思う 時代画する英断、リーダーに必要な基準 (2/2ページ)

 大相撲5月場所4日目の取り組みで右ひざを負傷し休場した新大関貴景勝は、3週間の治療が必要と診断されたにもかかわらず、「驚異的な回復をした」ということで、3日休場しただけで再出場。しかし1番とっただけで再休場を余儀なくされ、翌7月場所全休することになった。5月場所の再出場のツケは大きかったと私には思える。

 千賀ノ浦親方は5月場所では、貴景勝の再出場を制止できなかったが、7月場所では出場したいという貴景勝の強い志願に対して、長時間にわたり頑として首を縦にふらず、最終的に全休させた。新大関として一場所たりとも全うせずに大関陥落となったが、正しい判断をした。

 佐々木投手は、4回戦で延長12回194球を投げた後、県高校野球連盟の医療スタッフに右肘内側の違和感を訴えている。準々決勝で登板回避した後、準決勝で完封劇を演じるわけだが、国保監督の頭の中には、もう二度と過度な負荷をかけてはならないという思いがあったに違いない。同じ過ちを二度と繰り返してはならないのだ。

 ビジネスシーンでも同じような局面は山ほどある。「このプロジェクトを乗り切らせなければならない」「顧客依頼に応えるために徹夜させなければならない」時に、健康を損なう可能性を推してもそうしなければならないのか、考えなければならない。

 「大船渡高校35年ぶり甲子園出場という地元の期待に応えられる」「全国のファンが佐々木投手に期待してくれる」「甲子園に出場すればさらに評価される」。こうした周囲からの評価を得たいと思ったのならば、国保監督は、佐々木投手を登板させていただろう。そうしなかった国保監督は、それが甲子園という夢であろうと、何事にも代え難い健康、命を守るという内なる基準に従って英断したのだ。時代を画する英断をする人は、常に内なる基準に従って行動するものだ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役、慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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