加えて、聞き手の理解や期待を促すことを加速させているのが、安倍総理のうなずきのスキルだ。フレーズごとにうなずくように、視線を下に外している。つまり、間をつくるたびに、うなずいているのだ。
それも、右に向いてワンセンテンス話してうなずき、話をやめてゆったりと間を置いている間に左を向いて、おもむろにワンセンテンス話してうなずき、右の聞き手も、左の聞き手も巻き込んでいく。記者をはじめとする聞き手に理解を求める、賛同を得たいというメッセージが伝わる。
私が実施しているビジネススキルを向上させる能力開発プログラムで、「1人に対してワンセンテンス」と名付けて演習している手法そのものだ。
ところで、20年来実施している演習参加者に聞くと、最も引き込まれやすいアイコンタクトの秒数は初対面の人との間では2秒から3秒で、最も好ましく感じるアイコンタクトを外す方向は、下方向だと答える人が最も多い。安倍総理が25秒で13回の間をとって、うなずくように視線を外しているスキル発揮の仕方は、まさにそのモデルなのだ。
このスキルは、記者会見だけで効果があるわけではない。オフィシャルな場面でも、プライベートの場面でも、聞き手を引き付けることに役に立つ。多数を前にしたプレゼンテーションでも、1対1の対話でも使えるスキルだ。