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悪化する地球の健康 廃棄物再利用へ政策大転換急げ

 健康維持のためには定期的な健康診断が欠かせない。病気を早期発見できる可能性があり、対策が取れる。同じことは、私たちが暮らすこの惑星にも当てはまる。残念ながら、地球の健康状態は良くない。3月に国連環境計画が発表した「第6次地球環境概況(GEO6)」は、世界の環境の状況に関する最も包括的な評価報告書だ。

 地球の病態はどうだろう? 温暖化が進み、多くの生物種が絶滅し、天然資源は浪費され、生態系の多くがストレスの下におかれている。プラスチックによる海洋汚染も深刻だ。GEO6は単なる健康診断を超え、持続可能な将来へ向けた包括的な治療法として、取るべき行動も示した。「私たちの暮らしを支えているシステムに本格的な構造変革をもたらすべき時だ」。これが報告書の結論だ。私たちは、食料、エネルギー、廃棄物の3つについて環境負荷や健康への影響を集中的に検討することが求められている。

 食料に関するシステムの転換には、農家や生産者が生産過程での温室効果ガス排出を減らし、効率的に水と土地を使う方向に向かうよう、強力なインセンティブを準備することが必要だ。製造から消費に至るまで、食品の損失をなくし、全ての人々が、より健康的で、持続可能な食事に向かうように促すべきだ。多くの場合、それは「肉の消費量を減らす」ということを意味する。

 エネルギー供給を完全に「脱炭素化する」ことも重要な目標だ。エネルギーの使用と温室効果ガス排出、大気汚染という3者の関連を断つため、人々がよりクリーンなエネルギー源を使うように法制度、政策、技術革新の方向を定める必要がある。エネルギー利用効率の向上も欠かせない。何世紀もの間、私たちは経済成長とは原料を採取して製造し、廃棄するものだと思ってきた。人類は2017年に900億トンの資源を使用したが、その50%は廃棄物として捨てられ、真に経済に貢献したのは10%未満だ。

 今こそ「循環」の考えに立ち、廃棄物を再利用されるべき資源として見直しを始めるときだ。政府は、新しい資源の利用には税金を課し、企業が持続的に利用可能な製品や、再生・再利用可能な製品を作り出すための誘因となる仕組みが必要になる。企業は生産過程での無駄をなくすだけでなく、利用後にリサイクルできるか、別の目的に利用されるような製品を提供することが求められる。消費者は物を買うとき、最終的に、どのくらい捨てられるのかについて考える意識を高めなければならない。

 一方で良い知らせもある。飢餓解決の面では進歩があり、経済成長への持続可能なアプローチについても多くの成功例が見られる。一世代前には予想できなかった規模と速さで技術革新が起こっている。3月、ナイロビでの第4回国連環境総会はその機運を高めた。

 地球上の誰もが安全に、人間らしく暮らせる世界を建設するということは、人類がこれまでに直面した最も偉大な挑戦だろう。だが地球を健康な状態へ回復させることができれば、私たちはそれを実現できる。いま危機にひんしているのは、生命であり、人間の社会なのだ。もう無駄にできる時間はない。

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【プロフィル】JOYCE MSUYA

 ジョイス・ムスヤ 国連環境計画事務局長代行。タンザニア生まれ。微生物学や環境科学を学び、世界銀行勤務などを経て、2018年11月から現職。

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