東京・神保町にある小さな落語の定席が10周年を迎えるのを記念して、武道館で落語公演会が2月下旬に開かれた。さだまさしとのコラボレーション企画とはいえ、1万人以上収容の会場がほぼ満席だった。寄席からホール落語全盛時代となって久しいが、それでも観客数は多くとも1000人前後である。
当代のはなし家を代表する2人が、さだと新しい落語公演の在り方を魅せた。立川談春は、遊女と染物師の愛の物語「紺屋高尾」、立川志の輔は、貧しい長屋に住む大工の妹が大名の側室となって、跡取りを生む「八五郎出世」を演じた。
さだは、それぞれが高座を下りると、アンサーソングとして、愛し合う人が出会う「いのちの理由」と、子供の成長を見つめる「親父の一番長い日」を歌った。
落語と歌謡という異なる分野が、相互に刺激し合って大会場の観客の拍手と歓声を呼ぶ。古典芸能の世界では、歌舞伎と文楽、落語などそれぞれの分野で創作された作品が、他の分野に移されて2次作品として新たな命を育む。「紺屋高尾」はもともと浪曲の演目で、落語となり、時代劇映画にもなっている。
「日本文化の中では、見立てや本歌取りのように、さまざまなオリジナルに対する2次創作として作品を展開するのは、ごく普通の手法である」と、東京工業大学教授の出口弘さんは「コンテンツ産業論」(東京大学出版会)の中で説いている。
現代の多様化するコンテンツの「最も影響力の強い物語の上流」として、出口さんは漫画をあげる。漫画はアニメーションとなり、テレビドラマとなり、映画となる。漫画自体も、世界的な同人誌の交流会であるコミックマーケットをはじめとする、書き手と読み手が相互に創作から2次作品を生み出す制作過程を踏んでいる。
海賊版の違法ダウンロードの規制を強化する著作権法改正案に対して、漫画家が反発しているのは、日本文化のコンテンツの制作の歴史からうなずける。漫画家たちは、インターネットの中で自分の作品の制作に必要と考える画像をダウンロードし、色彩についても参考となる色使いをそのまま作品に生かすこともあるという。