10~20年後に日本の労働人口の49%が人工知能(AI)やロボットによって代替可能になる。2015年に野村総合研究所と英オックスフォード大はこんな研究成果を発表した。働くことの意味が根幹から問い直されるAI時代。広がる変革の波に現場の試行錯誤が始まっている。
◆1台で何でも調理
鉄板の型に生地を流し込み、頃合いを見てひっくり返す。長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスの一角で、1本の鉄製アームが身をくねらせながら次々とたこ焼きを焼き上げていた。15分で96個。AIがカメラ映像で焼け具合を判別し、失敗はほとんどない。
外食やコンビニの食品工場で、おにぎりなどの専用製造機は珍しくない。コネクテッドロボティクス(東京)が開発するのは「1台で何でも料理できる汎用(はんよう)調理ロボット」(沢登哲也代表)だ。焼く、煮る、揚げるはもうできる。課題の包丁さばきも現在研究中だ。
たこ焼きに続けて、天丼、カツ丼、カレーの調理法も学ばせており、年内の実現を目指す。豊富なレシピを身に付けた鉄製アームが、各地の厨房(ちゅうぼう)で料理人の仕事を取って代わる日も近そうだ。
AI先進地の米国では、雇用構造に既に変化が表れ始めている。真っ先に職を失うのが事務職の中間層で「移民が担ってきた労働集約型の産業に転職を余儀なくされている」(日本生産性本部の岩本晃一上席研究員)。その労働集約型の仕事も、急速に進歩するロボットに「いずれ奪われる」と岩本氏は予想する。
◆広告コピーも瞬時
日本でも、人手不足に悩む物流業界は自動化が目覚ましい。GROUND(東京)が運営する千葉県市川市の倉庫では、AIがインターネット通販の商品仕分けを差配する。箱詰めする作業員の前まで注文商品を載せた棚がロボットによって運ばれてくる仕組みで、通常約30人が必要な作業を3人でこなせる。天候や売れ筋を予測した最適な在庫配置もAIが計算するので「熟練者の勘」(宮田啓友社長)に頼る必然性はもはや乏しい。
知識集約型産業も例外ではない。電通が活用する広告コピー生成AIは、企業名を入力すれば、ニュースやブログ、過去にボツになったコピーを学習し、100種類ものコピー案を瞬時に創作する。
現状ではまだ顧客用にそのまま採用することはないが、社内のコピーライターが頭の整理やヒントを見つけるのに役立てている。「ビジネスに不可欠な道具として普及し始めている。近いうちに実用に耐えるものにしたい」(開発チームの福田宏幸氏)。アイデア勝負の仕事ですら、AIによる「侵食」から逃れられない状況がそこまで来ている。