大混乱する南米ベネズエラをめぐり、世界は対立の様相をみせている。そして、これは中国の巨大経済圏構想「一帯一路」などの世界戦略にも大きくかかわり、今後の世界の行方にも大きな影響を与えるものである。
ベネズエラの政治は、チャベス氏、マドゥロ氏という2代にわたる反米共産主義政権が支配し、チャベス氏の死後、暫定大統領になったマドゥロ氏は、政治から反対勢力を排除し、議会の権力を奪い独裁色を強めている。
マドゥロ氏は2期目の大統領就任を1月10日に発表したが、選挙の不正を理由として、米国や欧州連合(EU)など西側諸国は大統領就任を認めないとし、逆に中国やロシアは大統領就任を認め、支援する姿勢を示した。
ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を持つ国であり、南米一豊かな国でもあった。しかし、2代にわたる共産主義独裁政権の経済政策の失敗により、財政破綻に陥り、現在はハイパーインフレに苦しむ貧しい国の一つだ。反米共産主義国となったベネズエラに対し、西側諸国は工業などへの投資を控えた。このため、国家の経済は産油への依存度を高めていった。それに対し中国はベネズエラに2007年から14年の間、計630億ドル(現在のレートで約6兆8000億円)の融資を行い、チャベス氏はこれを経済政策の失策の穴埋めに利用した。その融資の返済はベネズエラの原油で行われることになっていた。
ベネズエラの原油は、タールなど不純物が多く、精製コストが高い。精製後にできる油も重油などが中心で低質なものでしかない。原油価格が下落すると、買い手がつかなくなってしまうのだ。そして、1バレル=100ドル前後をつけていた原油価格が30ドル台まで下落すると、債務が滞り始めた。また、中国以外の国にも原油が売れなくなったため、資金不足で輸入代金が支払えず、生活物資を含む物の輸入が止まってしまったのである。
このような場合、国家はデフォルト(債務不履行)を宣言し、国際通貨基金(IMF)などに救済を求めることになる。しかし、IMFでは米国が単独拒否権を保有しており、現在の政権のままではそれが認められる可能性は低い。
また、ベネズエラがデフォルトを宣言すれば、国際的な国家間の債務整理機関である「パリクラブ」にかけられ、中国としてもベネズエラに対する融資と権益のほとんどを失うことになる。これが一帯一路で生じた債務に苦しむ他国のモデルケースになり、デフォルトのドミノ倒しが起きる可能性がある。だから、中国は追加支援で、マドゥロ政権を擁護してきた。
それに対して、米国はマドゥロ氏の任期切れを理由に、ベネズエラの野党指導者、グアイド国会議長を暫定大統領と認め、マドゥロ政権に対する制裁を強化した。それはベネズエラの国営石油会社PDVSAを金融制裁の対象とするものであった。これにより、PDVSAは世界中の銀行口座が封鎖または凍結され、積み荷を積んだタンカーが世界の港湾に入港できなくなってしまった。
もし中国が入港を認めれば、中国の石油受け入れ企業の決済に関わる銀行が米国の金融制裁の対象になる可能性が高く、ベネズエラとの取引を停止するしかない事態に陥ったのである。中国はこれを強く非難しているが、何もできない状況にある。特に今は、米中の貿易交渉の最中で下手に動くと交渉が決裂しかねない。大量破壊兵器が生まれた現在、米国の持つ最大の武器は金融にあり、米国はこれを容赦なく使っているのである。
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【プロフィル】渡辺哲也
わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。愛知県出身。