雄大な山々と良質な水に恵まれた群馬県川場村。その自然にほれ込み、長野県の士族だった永井庄治氏が1886年に初代蔵元として創業したのが永井酒造だ。
「世界に通用する日本酒を造りたい」
6代目蔵元の永井則吉社長は、日本酒をワインのような世界的な酒にしようと、情熱を燃やす。
手掛けた日本酒は、米ニューヨーク最高峰の三つ星フレンチレストラン「ダニエル」や米カリフォルニア州の世界一予約が取りづらいといわれる名店「フレンチランドリー」など、世界の名だたるレストランで採用。さらには、シンガポール航空の全路線のファースト、ビジネスクラスでも提供され、空の旅をより優雅に楽しませている。
スタイル完成に20年
「世界中に市場があるワインと日本酒の違いは何なのか」
22歳のときに出合った仏ワインの王様、ロマネコンティ「モンラッシェ」のビンテージ(熟成酒)に衝撃を受け、独学でワインを学び始めた。
日本酒にも料理に合わせた選択肢があっていいのではないか-。最初に取り組んだのがビンテージの日本酒造りだった。
ワインと同様の環境で純米吟醸酒を熟成させたが、3年で味のピークを迎えてしまう。ビンテージは「時を価値にする」酒だ。純米大吟醸酒で再挑戦し、10年以上熟成できる最適な温度帯を見つけ出した。
完成したビンテージの日本酒は複雑でしっかりとした味わい。これを売り出すため、シャンパンのような乾杯用の発泡日本酒の開発に取りかかった。
濁り酒と透明な酒をブレンドし、瓶内で二次発酵させることで炭酸を閉じ込める。ブレンド比を見つけるのに700回もの失敗を繰り返し、10年もの歳月を要して発泡日本酒「水芭蕉(みずばしょう)ピュア」を完成させた。
さらに、食事を締めくくる「デザート酒」にも挑戦。水の代わりに酒を使って仕込む貴醸酒の製法で、マスクメロンや、蜂蜜を思わせる甘みのある仕上がりにした。
ビンテージの研究を始めてから20年。乾杯酒、食中酒、ビンテージ、デザート酒と一連の流れで日本酒を楽しめる「ナガイ・スタイル」を完成させ、「世界へ挑戦できるスタートラインに立った」。4タイプの味わいは異なるが、原料のコメと酵母などは全て同じものだ。「コメの可能性を追求した」と胸を張る。
夢は各国と文化交流
まずは乾杯酒の発泡日本酒を広めようと、2016年に「awa(あわ)酒協会」を設立。「八海山」(新潟)、「出羽桜」(山形)などの銘酒を生み出す14県15社の蔵元が加入し、永井酒造と同様の自然発酵による透明な発泡日本酒を販売している。
昨年10月には欧州で有数規模の日本酒見本市に参加し、「シャンパンとはカテゴリーの異なる新しい酒だ」と高い評価を得た。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、「awa酒をシャンパンに代わる各パーティーの乾杯酒にしたい」と張り切る。
最終的な目標は、日本酒による文化交流だ。良質な日本酒で日本の文化を発信し、各国の誇る文化を尊重し合うきっかけを作りたいという。
「同じテーブルに着けば人種も宗教も文化も関係ない。酒造りでみんなをハッピーにし、世界平和に貢献するのが自分の使命だ」
村と日本を世界へつなぐべく極上の日本酒造りに全力を注いでいる。(糸魚川千尋)
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【会社概要】永井酒造
▽本社=群馬県川場村門前713(0278・52・2311)
▽創業=1886年
▽資本金=4000万円
▽従業員=30人(パートタイムを含む)
▽売上高=7億2000万円(2018年3月期)
▽事業内容=酒類の製造・販売