経団連などの経済3団体や業界団体が開いた新年祝賀会。経営トップからは企業業績の堅調さを強調する意見の一方、米中貿易摩擦などの地政学的リスクについて懸念の声が相次いだ。安倍晋三首相が求めた賃上げで、ベースアップ(ベア)への明言がほとんど見られないなど、先行きの不透明感が経済界全体を覆っている。
「今は晴れだが、雲が出始めて黒くなっている。曇りを覚悟して準備する」。3団体の祝賀パーティーで新日鉄住金の進藤孝生社長は、足元の景気認識を天気にたとえて表現した。
◆新たな国際的対立軸
現在の景気拡大期間は昨年12月で戦後最長の「いざなみ景気」に並ぶ73カ月。改元や東京五輪・パラリンピックなども控え、トップからは「前向きな心理が期待できる」(日立製作所の東原敏昭社長)といった声も上がったが、「株価下落もあり、注意深く見守る必要がある」(森ビルの辻慎吾社長)など楽観を戒める見方が大勢を占める。
「雲」の正体としてトップらが口をそろえたのは、米国と中国との貿易摩擦だ。みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長は「一過性の衝突とみるより新しい国際的な対立軸。一朝一夕で解決とはならない」と対立の長期化を警戒する。トヨタ自動車の豊田章男社長は「コントロールできないので、米中両国から選ばれるメーカーを目指す」と当面の対応を語る。
◆賃上げ要請を牽制
10月に実施予定の消費税率10%への引き上げについても、流通大手セブン&アイ・ホールディングス(HD)の井阪隆一社長が「大変怖い」と戦々恐々。NTTの澤田純社長も「通信利用を抑える人もいるかもしれない」と述べ、個人消費への悪影響を指摘する声が上がったが、「社会保障のために乗り越えるべきハードル」(井阪氏)とのジレンマも垣間見える。
こうした中、景気下支え策として安倍首相が経済界に要請している賃上げについて、春闘を前にベースアップに対し、具体的な言及を避ける傾向が強かった。
ANAHDの片野坂真哉社長は「総合的な賃上げがキーワード」と話すほか、JXTGHDの杉森務社長も「賃上げは従業員が働きやすくなるために何をすればいいかの一つ」と明言を避けた。日本商工会議所の三村明夫会頭は「取引価格の是正で賃上げの原資を作ってほしい」と政府側にも役割分担を求めた。