8年連続の赤字、倒産寸前まで追い詰められたメガネスーパーの「V字回復」が大きな注目を浴びている。(加納由希絵,ITmedia)
苦境から一歩抜け出したのは、9期ぶりに黒字転換した2016年4月期だった。その後も、スピードを緩めることなく再成長へと突き進んでいる。既存店売上高は、18年10月まで33カ月連続で前年超え。18年5~10月の上半期は前年同期比20%増と足元も好調だ。
メガネスーパーはどのようにどん底からはい上がったのか。眼鏡業界のビジネスモデルに着目して解説する。
「レンズ付きワンプライス」の落とし穴
そもそも、メガネスーパーはなぜ苦境に陥ったのか。
1973年の設立以降、長年にわたって業界をけん引してきた。眼鏡を買う場所といえば個人店や百貨店だった時代に、ブランド品を大量に仕入れて販売するチェーン店の展開を開始。テレビCMなど積極的な情報発信の効果もあり、一気に知名度を上げ、売り上げを伸ばした。かつてのCMが記憶に残っている人も多いだろう。
店舗網を全国に広げ、ピーク時の2007年には売上高380億円、540店舗を展開していた。
ところがその直後、急速な事業環境の変化に直面する。低価格でファッション性の高い商品を販売する「JINS」や「Zoff」などSPA(製造小売り)のビジネスモデルが存在感を強めていた。このことが業績悪化の環境的な要因だと言われているが、「実はそれだけではない」と、営業統括本部シニアマネジャーの斎藤満氏は明かす。
なぜかというと、SPAメーカーの商品とは価格帯が異なるからだ。メガネスーパーにより大きな影響を与えたのは、業界大手のメガネトップが06年に展開を始めた「眼鏡市場」。メガネスーパーの競合となる中価格帯(3万~5万円程度)商品をそろえる店舗で、新しいビジネスモデルを打ち出した。それが、「レンズ付き」のワンプライスだ。
眼鏡の価格はフレームとレンズの料金を合わせたものだったのが、レンズが「無料で付いてくる」という、顧客にとっては分かりやすい価格表示に。それによって価格は大きく下がり、この価格を打ち出す店舗が顧客の支持を得るようになった。
メガネスーパーの失敗は、そのビジネスモデルにやみくもに追従してしまったことだ。競合他社はコストや客数を緻密に計算し、利益が出る仕組みを構築した上で「レンズ付き価格」を打ち出して成功していた。一方、メガネスーパーは顧客が増える見通しもないまま、一斉に在庫商品を値下げしてしまったのだ。「自滅した」(斎藤氏)格好だ。
競合からは一気に突き放され、坂を転げ落ちるように業績が悪化。11年には債務超過に陥り、上場廃止の危機に。倒産寸前の12年、経営権は創業家一族から投資ファンドの手に渡った。