燃料電池車(FCV)に水素を補充する施設「水素ステーション」が広がりつつある。国内ではこれまでに約100カ所が整備され、政府は2025年度までに320カ所まで増やす目標を掲げる。一定の要件を満たしたドライバーが自ら水素を補充する「セルフ式」も導入された。ただ、現状ではFCVの普及がさほど進んでいないことなどから、採算性は厳しいようだ。整備や運営にかかるコスト回収が課題との指摘もあり、参入企業には工夫が求められている。
FCVプラスα期待
「水素は、経済成長およびエネルギー安全保障、同時に、大気質の改善・温室効果ガスの削減により、環境保護に貢献することができる」-。主要国の閣僚や政府関係者、民間企業が参加して10月23日に東京で開かれた「水素閣僚会議」で示された「東京宣言」では、水素が持つ可能性についてこう言及した。
水素は、石油などの化石燃料だけでなく、太陽光や風力といった再生可能エネルギーからもつくれるため、主に中東の化石燃料に大きく依存した日本にとってはエネルギーに関するリスクの低減につながる可能性を秘めている。また、水素は燃料として利用するときに二酸化炭素(CO2)を排出しないため、将来的に地球温暖化対策の切り札になるとも期待されている。
その水素を利用する対象の一つが、FCVを中心とした自動車関連だ。政府は昨年12月に策定した「水素基本戦略」で、FCVを20年までに4万台程度、25年までに20万台程度、30年までに80万台程度の普及を目指すとした。水素ステーションについても、20年度までに160カ所、25年度までに320カ所の整備を目標とし、20年代後半までに「水素ステーション事業の自立化を目指す」と記した。
企業の間では、水素ステーションの展開に乗り出す動きが出ている。JXTGエネルギーは首都圏のほか中京圏、関西圏、北部九州圏で40カ所を手掛け、国内の水素ステーションの約4割を占めるなど先行している。同社幹部は「水素の利活用は自動車だけに限らない。将来的にクリーンエネルギーの一翼を担うのは間違いないので、何ができるのか研究したい」と話す。
岩谷産業も兵庫県尼崎市の第1号を皮切りに、今では23カ所を運営。また、東京ガスは今月12日、燃料電池バスの受け入れが可能な水素ステーションを東京・豊洲に建設すると発表。19年中の営業開始を予定する。
一定の要件を満たした場合のセルフ式も解禁され、JXTGエネルギーと岩谷産業は10月、既設の水素ステーションでセルフ式をそれぞれ導入。ドライバーは企業と契約した上で安全講習を受講するなどすれば、自ら水素をFCVに補充できる。