【知恵の経営】いい会社はいい取引から

 □経営学者・元法政大学大学院教授人を大切にする経営学会会長・坂本光司

 長期にわたり、好業績を持続している企業の最大級の特長は「5方良しの経営」をぶれずに実践していることにある。

 5方とは、(1)社員とその家族(2)社外社員(仕入れ先や協力企業など)とその家族、(3)現在顧客と未来顧客、(4)地域住民とりわけ障害者者ら社会的弱者、(5)株主-の5人だ。5方良しの経営とは、この5人が程度の差こそあれ、大切にされていると実感する経営のことだ。

 この中で全てではないが、多くの大企業から重視されていないどころか、逆に軽視されていると思わざるを得ないのが、(2)の「社外社員とその家族」に対する思い・取引姿勢である。

 例えば、自分の企業がある程度の利益を上げているにもかかわらず、仕入れ先や協力企業に対して、コストダウンを強要したり、1日に何回も小口納品をさせたりするような取引もその一例。また、支払い条件を、月末締め翌月末払いといった法律ぎりぎりの長期払いをしたり、その対価を手形で支払ったりするなどの取引慣行も含まれる。

 仕入れ先や協力企業を「社外社員とその家族」と評価・位置付けしていたら、せめて締め後20日以内、全額現金支払いが正しい取引である。

 ともあれ、こうしたどう見ても理不尽と思われるような取引や、支払いが横行するのは、発注者、とりわけ大企業の基本的な経営姿勢にも問題があるといえるが、一方の仕入れ先や協力企業の取引先の選定にも問題があるといえる。

 理不尽な取引や支払いを強要するような企業とは、「こちらから取引をお断りをする」という強い決意で経営をしなければ、自社の社員とその家族の幸せなど、実現できるはずがないからだ。加えて言えば、それが実現しなければ、自分の企業が、やがて人財不足倒産に陥ってしまうのである。

 発注者、とりわけ大企業に、理不尽なことを強要されない対等なパートナー企業になるためには、仕入れ先や協力企業自身が、強い非価格競争力という武器の創造・確保はもとより必要だが、もう一つ重要なことが、特定の企業に過度に依存しない経営である。

 筆者のよく知る従業員数50人の浜松市にある中小企業は、自社商品50%、他社商品50%を扱う企業だが、他社商品の取引先は実に約1000社もある。つまり平均取引依存度は、なんと約0.1%にすぎない。

 余談になるが、かつて著名な東証1部上場企業から、コストダウンの要請があった際、それを認めずに断った話は有名になった。

                   

【会社概要】アタックスグループ

 顧客企業1700社、スタッフ220人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。