□経営学者・元法政大学大学院教授 人を大切にする経営学会会長 坂本光司
全国規模で人財不足が加速・拡大している。労働需給の実態を示す有効求人倍率も、今やバブル期並みのレベルにあるばかりか、人財不足状態にある企業が50%を超える勢いである。
こうした中、新規学卒者のみならず、既存の就業者の奪い合い競争も激化している。人工知能(AI)やロボットが短時日に格段に進歩しない限り、わが国の人財不足問題は一段と深刻化していくものと思われる。
それもそのはず、近年の人財不足問題は、好不況が定期的にもたらす、一時的・一過性的問題ではなく、労働力人口そのものが激減している、構造的な問題から発生しているからだ。
例えば、生産年齢人口(15歳から64歳)を見ると、2015年の7700万人が、25年には7100万人となり、そして35年には6300万人となると推計されている。
25年までの10年間で600万人。35年までの20年間では1400万人の生産年齢人口が減少してしまう。
こうした時代にあって、哀れな人財不足倒産に陥らないようにするためには、どうすればいいのか。紙面の都合で詳細を述べることはできないので、その基本的な対策を指摘すれば、次の3つである。
第1は、人が入社したいと殺到し、辞めない、働きがいのある企業づくり。
第2は、いまだ十分活用され、活躍しているとは到底思えない高齢者・女性・障害者の、新しい3人の主役の活躍促進。
そして、第3は、このことが最も大事なことであるが、いま縁あって入社してくれている社員のモチベーションアップによる、その持つ能力の発揮度を飛躍的に高めることだ。
というのは、筆者らの調査によれば、わが国企業の社員、とりわけ、知識労働を担う中堅社員の能力発揮度は、なんと1割から2割程度だからである。このことにこそ、わが国の人財不足の根本的要因が潜んでいるのである。
社員がその持つ能力を十分発揮していない最大の問題は、「発揮できない・発揮させない」人事・労務制度や組織風土、さらには「発揮したくない」と思っている、企業のトップや中間管理職の経営の考え方・進め方にあることは言うまでもない。
その意味で言えば、既にいる社員の能力発揮度を3倍にしなくても、2倍にしただけで、わが国の労働力は一気に2倍に増えるのだ。
その方法とは、社員やその家族がその組織に属することで、幸せを実感できる正しい経営の実践である。
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【会社概要】アタックスグループ
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