素材メーカーが人手不足でフル生産できない状況に追い込まれている。各社は採用条件を良くするなどして対応を急ぐが、人手確保は容易でない。このままでは機械メーカーなど製品の供給先の生産に悪影響が出る恐れもある。サービス産業で深刻化した人手不足問題は製造業にも波及した。
三菱製鋼室蘭特殊鋼(東京)は現在、月9万トンの鋼材を製造するが、設備は能力の1割を余している。2017年春から建設機械向けに需要増が続く中で「顧客の注文に十分対応できていない」(親会社の三菱製鋼の広報担当者)状況だ。北海道室蘭市の工場で中途採用を試みたが、うまくいかず、今年4月に過去最多の約20人の高卒を採った。フル生産には今秋までかかる見通しだ。
半導体の材料を製造するシリコンテクノロジー(東京)は長野県佐久市の工場の生産が能力の半分程度にとどまる。製品表面の研磨や最終検査といった工程に必要な人手不足が妨げとなっている。外国人労働者を積極的に雇い、現在100人弱の従業員を19年までに計30人増やす方針だ。だが親会社カーリットホールディングスの広報担当者は「どの産業も好況で、人が集まらない」と危ぶむ。
繊維大手の東洋紡は昨年、敦賀事業所(福井県敦賀市)で半導体関連部品と次世代ディスプレー「有機EL」向けのフィルム増産を発表した。自動車メーカーなどの旺盛な需要に応えるためで、計約50人の新規雇用が必要になった。ただ、福井県は電子部品などの製造業が好調で、全国的に見ても有効求人倍率は高い。このため社宅費を1年間無料にするなどして人材を確保したい考えだ。
素材産業の動向に詳しいソニーフィナンシャルホールディングスの渡辺浩志エコノミストは「海外でも作れる素材は輸入品に置き換えられ、日本企業しか作れない製品では、建機や電機など幅広い産業の生産が抑制される可能性もある」と警鐘を鳴らす。今後は人工知能(AI)の活用といった現場の人手を減らす投資も増すとみている。