【ビジネスのつぼ】森永乳業「ビフィズス菌A1」

ビフィズス菌研究の指揮を執る基礎研究所の清水金忠所長
ビフィズス菌研究の指揮を執る基礎研究所の清水金忠所長【拡大】

  • 電子顕微鏡で見たビフィズス菌の様子
  • 100周年記念の一環として、1月に開催したビフィズス菌に特化した国際シンポジウム

 ■アルツハイマー病の発症抑制に道

 一度発症すると進行を止めることや、回復するための治療が難しい認知症。患者数は世界的に急増しており、厚生労働省の推計によると、日本の患者数は2015年時点で517万人と65歳以上の高齢者のうち6人に1人という高い割合だ。

 この認知症の中で約6割を占めるアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の発症を抑える可能性が「ビフィズス菌」にあることが分かってきた。森永乳業は、自社で保有する「ビフィズス菌A1」を使った動物試験や、ヒトによる前後比較試験で改善作用を確認した。ビフィズス菌単独摂取によるアルツハイマー病の発症抑制は世界で初めての知見という。薬ではなかなか解決できないアルツハイマー病の予防が、食品で解決できる可能性が出てきた。

 ◆脳内炎症抑える働き

 「この結果は本当だろうか。信じられない」。16年末、神奈川県座間市にある森永乳業基礎研究所。動物試験の好結果に清水金忠所長は驚きの声を上げた。試験やデータに誤りがあることを懸念し、念のため同様の試験を外部機関に委託したところ、全く同じ結果が出た。「A1は本物だ」という清水所長の言葉に研究室は沸き返った。

 アルツハイマー病は、発症の数十年前から徐々に進行する神経疾患の一種。原因の一つとしてアミロイドβと呼ばれる物質が脳内に蓄積することが、病態進行に大きく関わっていると推定されている。

 実験は、アミロイドβを投与したマウスに1日当たり10億個のビフィズス菌A1を投与。生理食塩水だけを与えたマウスなどと比較したところ、脳内の過剰な免疫反応や炎症を抑え、顕著な改善が認められたという。具体的には、空間認識力を評価するY迷路試験、学習・記憶能力を評価する受動回避試験ともに改善効果があった。

 また、アミロイドβをマウスの脳に注入して脳の遺伝子を解析したところ、生理食塩水だけ与えたマウスは炎症に関わる遺伝子が多く発現したが、A1摂取の場合は通常のマウスとほとんど変わらず、ビフィズス菌A1が脳内炎症を抑える働きがあることが示唆されたという。

 「ビフィズス菌のパイオニア」を自任する森永乳業。1969年に乳児からビフィズス菌BB536を発見し、71年に日本で初めてビフィズス菌入りの発酵乳を発売した。その後、ビフィズス菌BB536に整腸作用はもちろん、感染防御作用、抗アレルギー作用などがあることを実証。この菌の入ったヨーグルトやサプリメントなどを生み出してきた。

 2000年以降、遺伝解析など研究手法が進化したことで、ビフィズス菌などが腸内細菌に及ぼす影響についての研究が世界的に進展している。腸内環境が全身の健康に影響が及ぼすほか、最近では脳と腸に相関関係があるとして注目が集まっている。

 清水所長は「腸内細菌のいいところは環境因子の影響を受けることにある。生物はもともと持っている遺伝子を変えることはできないが、腸内細菌は生活習慣で変えることができる。つまり、特定の食物の摂取という自分の努力で健康を改善できる可能性がある」と強調する。腸内細菌が世界的に注目されている理由はここにある。

 森永乳業の基礎研究所は15年7月の組織改正で発足。5年後、10年後に花開くシーズ(種)として、「これまで報告がほとんどなかったビフィズス菌摂取とアルツハイマー病の予防」(清水所長)をテーマに研究に取り組むことになった。

 ◆認知機能を改善も

 先ほどの動物試験に続き、この3月にはヒトによる前後比較試験の結果を日本農芸化学会で発表し、人間に対してもビフィズス菌摂取が認知機能を改善する可能性を確認した。

 試験は、認知症評価に使われるミニメンタルステート検査(MMSE)と呼ばれる聞き取り式質問票を使い、アルツハイマー病の前段階の軽度認知障害が疑われる65歳以上の被験者27人にビフィズス菌A1を100億個含有したカプセルを1日2個摂取してもらい、8週間後、16週間後、24週間後の認知機能を評価した。

 この結果、MMSEのスコアが上昇し、認知機能の改善が認められたという。清水所長は「今後、評価や解釈に作為が入らないヒトを使った試験などで有効性を検証するとともに、科学的な根拠を積み重ね、商品化につなげていきたい」と意気込んでいる。

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 ≪企業NOW≫

 ■次の100年に向け経営理念など一新

 2017年9月に創業100周年を迎えた森永乳業。100周年記念の一環として、今年1月に東京・品川で開催されたのが、ビフィズス菌研究に特化した国際シンポジウム「腸内細菌と健康~ビフィズス菌研究の新展開」だ。

 海外から4人、国内から7人の有識者を招いて550人が参加した。未発表データを数多く含む講演が相次ぎ、盛況だったという。腸内細菌に世界的な関心が高まる中、「ビフィズス菌のパイオニア」として情報発信したいという研究所の要望から実現した。

 次の100年に向けてコーポレートスローガン、経営理念も一新した。コーポレートスローガンは「かがやく笑顔のために」。日々の食生活や家族のだんらんを通じ、一時的な笑顔ではなく、内側から自然とあふれてくるような「笑顔」になってほしいという思いを込めたという。

 また、顧客2000人が同時に同じオリジナルケーキのデコレーションレッスンを受けるギネス世界記録に挑戦するイベントを3月28日に東京・有明の東京ビッグサイトで開催する。有名なパティシエ、横田秀夫氏のレッスンを受けながらチャレンジし、これまでの世界記録である米国の1401人超えを目指す。

 このほか、100周年事業として、ビフィズス菌M-16Vの低出生体重児向けの無償提供や、インドネシアのプレスクール修繕活動への支援なども推進している。

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【会社概要】森永乳業

 【本社】東京都港区芝5-33-1

 【創業】1917年9月

 【資本金】217億400万円(2017年3月31日現在)

 【従業員数】3035人(17年3月31日現在)

 【事業内容】牛乳、乳製品、アイスクリーム、飲料その他の食品等の製造、販売