【eco最前線を聞く】三菱商事 国際間水素サプライチェーン実証着手

次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合が建設する「川崎脱水素プラント」完成予想図(同組合提供)
次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合が建設する「川崎脱水素プラント」完成予想図(同組合提供)【拡大】

 □三菱商事環境R&D事業部総括マネージャー・黒田洋介氏

 三菱商事は、千代田化工建設、三井物産、日本郵船と昨年7月、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD、横浜市西区)を設立、世界に先駆けて水素の国際間サプライチェーンの実証事業に乗り出した。三菱商事は中長期的に新たな柱となる事業を探す中、水素に注目。海外から水素を持ってきて発電に使うという日本政府のチャレンジに、大量輸送の経験とノウハウで貢献する。同社が水素事業の検討を始めた2013年から関わってきた黒田洋介・環境事業本部環境R&D事業部総括マネージャーに実証事業の狙いや課題などについて聞いた。

 ◆政府戦略受け本格発電へ

 --実証実験の概要は

 「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業を受けた実証で、千代田化工が開発した有機ケミカルハイドライド法と呼ばれるSPERA水素技術を使ってブルネイに水素化プラント、川崎市臨海部に脱水素プラントを19年までに建設。20年にブルネイで調達した水素を常温・常圧下で液体の形で日本へ海上輸送し、川崎市で気体の水素に戻し需要家に供給する。水素の供給源はブルネイの天然ガス液化プラントのプロセスで発生する未利用ガス。それを水蒸気改質して水素を製造する」

 --何を実証するのか

 「発電技術と海を渡っての水素の大量輸送技術で、トライすることにより水素発電を本格化するのが狙い。実証規模は年間で最大210トンの水素供給と小規模だが、川崎市臨海部にある火力発電設備の燃料用途などに供給する」

 --参加する意義は

 「政府の水素戦略に沿っているからだ。政府は14年4月に閣議決定した第4次エネルギー基本計画で、水素エネルギーは『将来の2次エネルギーの中心的役割として期待される』と記載。同6月に発表された経済産業省の『水素・燃料電池戦略ロードマップ(16年3月改定)』では水素社会の実現に向けた指針で、30年ごろには水素発電と海外からの大量輸送・供給技術の確立に取り組むことが示された。われわれは水素発電の本格導入を念頭に、主に海外と国内をつないだ水素の大規模サプライチェーンの事業化を目指し、実証事業を通じてさまざまな検討を行っていく」

 ◆CO2削減オプションに

 --中長期的な事業の柱として水素に着目した理由は

 「二酸化炭素(CO2)削減や環境負荷低減、省エネ、再生可能エネルギーの増大など地球環境への影響に対する関心はますます高まっている中、燃焼時にCO2を排出しない水素に注目が集まっている。このため水素は将来、CO2削減の有力オプションになる可能性は高い。また中長期的には環境価値次第で水素の導入余地は拡大することが予想され、水素関連市場は今後もさらなる拡大が見込まれると認識している」

 --水素発電の可能性は

 「水素は経済価値、社会価値、環境価値という3つの価値の同時実現に貢献できる。今は実証段階なので環境R&D事業部が担当しているが、中長期的には大きな事業の柱になる。建設中のプラントは小規模だが、動き出すと世界から注目を集めるのは間違いなく、水素発電をぜひ日本でやりたい。しかしコストがかかる。水素は価格的に優等生ではないが、ためる、運ぶは得意。30年のエネルギーミックス(電源構成)で政府は再生エネで22~24%、原子力で20~22%を描くが、そこに水素も入ってくるとみている。そのためには、政府は水素発電への政策支援をしっかりとしてほしい。そうすれば14年6月のロードマップも確実に進む。日本の水素技術を世界に発信していける」(松岡健夫)

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【プロフィル】黒田洋介

 くろだ・ようすけ 慶応大経済学部卒。1995年三菱商事入社。2013年環境事業本部環境ソリューション事業部排出権事業チームリーダー、15年環境R&D事業部水素・環境事業チームリーダー、17年4月から現職。46歳。東京都出身。