【スポーツi.】東京五輪、見失うな「アスリートファースト」

平昌五輪スノーボード女子スロープスタイル決勝で途中転倒する岩渕麗楽選手=2月12日
平昌五輪スノーボード女子スロープスタイル決勝で途中転倒する岩渕麗楽選手=2月12日【拡大】

 □フリーランスプランナー・今昌司

 スポーツ競技において、選手たちが技を競い、記録に挑む場である大会の価値。その大会の価値に対する考え方が、ゆがめられつつある。そもそも、大会の価値とは、出場する選手たちの競技力の高さいかんにある。選手たちの力を最大限に引き出させる場にこそ、大会の価値は存在し、その最高峰がオリンピックであるはずだ。

 オリンピックという大会の価値が高まれば高まるほど、その規模は肥大化し、維持していくためには多額の費用を必要とするようになった。オリンピックの大会運営を支える8割以上の資金は、放送権料とスポンサーシップ料というマーケティング収入に依存している。本来はスポーツ競技や大会の価値を高めるためにあるはずの収入が、スポーツ競技の価値そのものをゆがめる事態となっては本末転倒である。

 ◆競技団体間で軋轢

 先ごろ閉幕した平昌冬季五輪では、開幕直後から厳寒と強風が競技の進行に悪影響を及ぼした。冬季競技は自然との戦いでもある。過去にも悪天候で日程が大きく狂った事例は少なくない。しかし平昌五輪では、問題が別のところにあった。

 スノーボード女子スロープスタイルでは、決勝に出場した26選手中25人が転倒するほどの強風に見舞われる中で強行された。スノーボードは、1998年長野大会から新競技として採用されているが、今や、どの競技よりも高視聴率をたたき出すドル箱競技である。近年、スノーボード競技の種目が増加し続けているのも、その成果に起因している。特に、国際オリンピック委員会(IOC)に巨額な放送権料をもたらしているアメリカでの人気が高い。

 悪条件の中で強行された理由は明らかにされてはいないが、IOCの広報は、「競技は国際スキー連盟(FIS)によって行われている。彼らは選手のことを理解し、コンディションについても理解している」という談話を発表した。明らかにFISに責任転嫁しているようにも聞こえる。

 そのFISも、世界一流のスノーボーダーからは、非難の矢面に立たされている。もともと、スノーボード競技は国際スノーボード連盟(ISF)という組織が統括していた。しかし、オリンピックの正式競技に決定して以降、IOCは統括団体としてFISにスノーボード競技を管轄させた。だが、FISにはスノーボード競技大会を運営するノウハウがなかった。

 ISFはスノーボーダーが組織したプロフェッショナル集団的な団体だけに、コース設定から競技運営まで、豊富な経験と技術を持ち得ていた。それを見よう見まねでやっても、選手たちから酷評されるのは当然の成り行きである。冬季五輪の目玉とも言える競技となったスノーボードではあるが、IOCとFISのパワーゲームに翻弄されるばかりでは、スノーボーダーにとってオリンピックの存在価値は高まりようがない。

 ◆競技力が価値高める

 放送権を軸に、競技時間の問題もメディアをにぎわした。2008年北京大会でも論議になったように間違いなく、20年東京大会でも問題視されるだろう。重要なのは、放送権を持つテレビ局やスポンサー企業がオリンピックの価値を高めていることが最初に立つのではなく、選手たちの高い競技力あってのオリンピックである、ということだ。

 そのことこそ、「アスリートファースト」(選手第一)の真意であるべきではなかろうか。アスリートファーストとは、スポーツ競技としての価値を高めるために、選手たちに最高のパフォーマンスを発揮してもらうための競技環境を具現化することだと考える。スポーツ競技や大会の価値が生み出した対価をもたらす組織や企業が、スポーツ競技や大会の価値をゆがめている現状にアスリートファーストなどない。

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【プロフィル】今昌司

 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。