農林水産省が昨年12月に産地の風土と結びついた地理的表示(GI)ブランドと認めた愛知の豆みそ「八丁味噌(みそ)」をめぐり、江戸時代からの製法を守る本場の同県岡崎市の老舗2社が、登録から外れたことが26日分かった。
「GI」のお墨付きマークが付けられるのは、県内の幅広い業者で組織する名古屋市にある組合のみそ。この組合に加入していない「まるや八丁味噌」社と「カクキュー」ブランドを展開する「八丁味噌」社の老舗2社は国へ不服申し立てする構えだ。2社は生産量の半分超を占めるとされる。
政府は、諸外国と地域ブランドを互いに保護し輸出を促す成長戦略を描くが、定義があいまいな食の伝統文化を枠組みにはめるのは難しい面があり、各地で同様の論争が起きる可能性もある。
八丁味噌の名称は、徳川家康が生まれた岡崎城から西へ8丁(約870メートル)の八帖町に由来する。2社はこの地域内で、温暖な気候を利用して大豆を入れた木のおけに、石を積み長期熟成させる伝統手法を守ってきた。
しかし認定は「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」が得た。昨年12月に妥結した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)では、八丁味噌を含め輸出をにらむ全国48品目が保護されるが、2社は輸出する欧州で八丁味噌を名乗れなくなり国内ではマークを使えない。
2社は「県内に生産地域を広げ製法の基準を緩くすれば、品質を保てず顧客をだますことになる」と主張している。愛知県組合は「県の共有財産としてブランド登録された」との認識を示す。
2社と愛知県組合の双方が申請した審査では、統一に向け約2年の調整が続いたが溝は埋まらなかった。農水省は「不幸な結果となったが、海外の偽物から守るため登録を優先した」と説明。2社には認定した枠組みへの参加を促す。
農水省は、消費者が愛知特産の多くの豆みそを「八丁味噌」として認識し、みそ煮込みうどんなど「名古屋メシ」の定番調味料として使われていると判断。製法も生産者ごとに大きな違いはないとみている。
GIは2015年6月以来、150弱の品目が申請されたとみられるが、認定は58品目にとどまる。
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【用語解説】地理的表示(GI)保護制度
農林水産物や食品が、産地の伝統的製法や現地の風土に起因し、特性がある場合、地名を冠した地域ブランドとして保護する制度。模倣品の排除などを目的としている。不正使用が見つかった場合、表示しないよう農相が命令する。従わない場合、個人には5年以下の懲役か500万円以下の罰金、もしくは両方、法人には3億円以下の罰金が科される。