「ミスター百貨店」の異名をとる三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長(61)が今月末で退任する。突然のトップ交代は社内外に大きな衝撃を与えた。業績不振に陥る中でも伊勢丹出身の大西氏は事業の多角化を進め、現場では不満の声が高まっていった。最後は労働組合からの強い要請があり、三越出身の石塚邦雄会長(67)が引導を渡した。大西氏が労組の圧力で辞任に追い込まれたことは、社内融和を優先させないと、会社をまとめられない同社の複雑な事情を浮き彫りにした。
昨夏、三越伊勢丹の関係先に大西氏を誹謗(ひぼう)中傷する怪文書がばらまかれた。記者も昨秋に入手。そこには大西氏の人格や経営者としての資質を否定する文言が書かれ、最後には解任しなければ、会社が潰れると結ばれていた。大西氏の解任を求める内容だった。
こうした怪文書はやむことなく、今年に入っても送り続けられた。社外取締役の自宅にも頻繁に送られていたという。そして、この怪文書の予告通り、大西氏は辞任に追い込まれた。
三越伊勢丹の業績は昨年からインバウンド(訪日外国人)による「爆買い」の終息で急速に悪化した。伊勢丹新宿本店(東京都新宿区)など旗艦3店の売り上げも落ち込み、地方の不採算店の赤字を補いきれない状況に陥っていった。