人工知能(AI)を使ってがんや認知症などの治療データを大規模に解析し、患者ごとに最適な医療を提供するための実証実験を理化学研究所が4月に開始することが分かった。医療機関や製薬企業と連携して治療や創薬などを総合的に進める国内初の試みで、平成32年の実用化を目指す。
実験は東京大や大阪大、慶応大の各病院など全国20~30の医療機関と、製薬やヘルスケア分野の約10社が参加。病気はほかに鬱病、発達障害、統合失調症、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患、関節炎などを当面の対象とする。
医療機関が蓄積してきた数万人規模の治療データのほか、数百人の患者に小型センサーを装着し日常の運動や心拍、睡眠などを計測。これらの膨大なビッグデータを理研が新たに開発したAIで解析し、一人一人の患者に最適な投薬や検査、介護法を見つけ出す。
理研のAIは自ら学んで理解を深める「深層学習」という機能に加え、複雑な解析を高い精度で高速に行う独自方式を導入。症状の推移を予測して予防法を見つけることも可能という。
解析結果に基づき製薬企業は新薬を開発。ヘルスケア企業は日常の健康管理や食生活、運動などの提案を患者ごとに行う。
AIは治療法の選択などで利用が始まっているが、治療から創薬、健康管理までを一体化した取り組みは国内初という。患者は自分に最適な医療を統合的に受けられる利点がある。
薬の効果は個人差が大きく、がんやアルツハイマー病では標準的な薬が効かない患者も多い。その人に合った薬を探す遺伝子検査も行われているが、ストレスや食生活などによって効き目は変わるため、日常生活のデータを含む大規模な解析が求められていた。
理研の実験はがんや精神疾患、免疫病など幅広い病気を対象とするため、炎症など多くの病気に共通する問題を横断的に調べ、対処法を迅速に見つけられる。