【高論卓説】「鬼十則」ではない電通問題の根源 弁護士の語った言葉にヒント (1/3ページ)

家宅捜索が入った電通本社=7日、東京都港区(伴龍二撮影)
家宅捜索が入った電通本社=7日、東京都港区(伴龍二撮影)【拡大】

経営者に問われる業務改善への姿勢

 「電通は従業員手帳から『鬼十則』を直ちに削除すべきです」。電通の女性社員の過労自殺問題に遺族の代理人として取り組んできた川人博弁護士が11月末、日本記者クラブで会見してこう述べた。

 「鬼十則」は、電通を広告業界の不動のトップ企業に戦後発展させた故・吉田秀雄第4代社長が1951年に定めた社員の行動原則である。仕事への果敢な姿勢を求めていることで、産業界では知られていた。

 川人弁護士が問題視するのは、例えば「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは」という点である。過労死の原因になる過重労働を強いる電通の企業風土を象徴するととらえている。

 電通は、従業員手帳から削除するのかどうか。しかし「鬼十則」を削ったからといって、問題の改善につながるのかどうかは少々疑問である。

 「殺されても放すな」は強烈だが、広告の鬼との異名をとった吉田社長も、まさか社員が殺されてもよいと考えたわけではないだろう。他の9つの原則も読めば、表現も含めて真っ当である。

 一例を挙げれば「計画をもて、長期の計画をもっておれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる」という具合である。吉田社長は猛烈ビジネスマンだったようだが、社員を絞り上げるだけの経営者ならば成功しなかったはずだ。

過労自殺を遂げた女性社員の職場は、広告媒体が大きく変わる最前線