もう一つの課題は、電波の損失。約3万6000キロメートルも離れているため、「電力がどんどん損失される」(ソフトバンク研究開発本部特別研究室の藤井輝也室長)。これは、電波をとらえるアンテナを大型にすることでカバー。今回は、手の平より一回り大きなサイズの筐体で、左右に伸びる板状のアンテナを格納した端末を試作した。この端末はモバイルルーターのような役割を果たすものだが、今回は実験とあって、携帯電話にあたる試作端末とはケーブルでつながっていた。
LTEは、受信電力(電波の強さ)に応じて通信速度が変わる。アンテナが小さければ毎秒100キロ~1メガビット程度という速度になる。今回の試作システム(10メガヘルツ幅)が、本当に携帯電話に内蔵されれば、通信速度はその程度になる見通しだ。卓上に設置するような、もう少し大きなアンテナであれば毎秒1~10メガビット、建物に備え付けるようなパラボラアンテナであれば10~100メガビットになる。
利用する周波数帯は柔軟に対応できるとのことだが、衛星~ユーザーが使う端末の間はSバンドと呼ばれる周波数を利用することが想定されている。Sバンドは、一般的な携帯電話向けの周波数帯を含む帯域で2ギガヘルツ帯などがそれに当たる。10ギガヘルツ帯よりも低い周波数帯であれば雨による減衰の影響を受けないという。災害発生時の対策として想定されるシステムで実現すれば、普段使いの携帯電話が直接、衛星とつながることになる。そうなれば、もし山深い場所など、携帯電話のサービスエリア外であっても通信できるということがメリットの一つに挙げられる。